第87話
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一日が終わり、刑事課内の捜査員たちに一言言ってフロアを出る。そして街を歩いていった。相変わらず疲労が溜まっていて、きつい。だが、別にそう気に掛けてない。どうしようもない状態は長く続かないと思っているからだ。またいい時が来る。そう感じていた。
地下鉄を乗り継ぎ、自宅マンションに帰り着いてから、自炊する。幾分気を抜き、食事を作って、テーブルで取った。いつも思う。日々単調なようで、実際考えることはたくさんあると。
翌日も通常通り出勤した。年末年始も休めそうにない。確かに事件捜査は警視庁の人間たちがやっているから、所轄の俺たちはもう口出ししない。だが、今の刑事課内の雰囲気だと、正月も交代で休む気にはなれないのだ。普通に午前八時二十分には署に行き、課内に詰める。それしかないと思っていた。
吉倉がいて、朝の挨拶をしてきたので一言返す。そしてパソコンを起動させ、向かった。事件の背後にはいろんな人間たちがいて、複雑に絡んでいる。東川幸生は村上義彦警部補によって殺害され、角井卓夫は福野富雄によって死へと追いやられた。全ては犯人側の身勝手な願望なり、利己的極まりない思惑のためだ。人を殺すなど、決して許されない。警察も威信を賭けて捜査している。いろいろと感じていた。ここ新宿の街で巻き起こった、二件の殺人事件について。
だが、新宿で起こった事件が新宿で帰結することだって考えられる。そう思うと、今現在オールバル島に行き、難しい捜査を強いられている警視庁の人間たちも哀れだ。仮に犯人が帰巣するとすれば、また日本へと戻ってきているはずである。そうなると、完全に警察側の無駄足だった。
ホシの目的は間違いなく警察を強請ることである。五億の裏金のことを引き合いに出し、あれこれ画策するのだ。村上が東川からデータを奪っている以上、思うつぼである。そして福野富雄は九竜興業の傘を借り、また新宿の街で同じ組の人間たちと悪事を働く。終わらない連鎖だった。絶えず続くのである。
ただ、いずれは犯人確保を成し遂げたい。警察官は皆、そう思っている。警視総監の岩尾や幹部たちは事を隠蔽したいのだが、俺たち下の人間は逆で、真相を暴露してしまい、挙句幹部総退陣でも構わないと感じる風があった。重い責任があるのだ。市民に範を垂れる立場として。
課内に詰めながら、ずっと考えていた。いろいろと頭を捻りながら……。外に出ると真冬で、一際寒いのだが……。(以下次号)




