第85話
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街を巡回し、歌舞伎町など危険な場所を見て回る。吉倉もスーツの上からコートを一枚羽織り、歩いていた。盛り場は一際危ない。この季節は特に、だ。年末年始、騒がしさが増して、俺たち警官も取り締まりが大変になる。相方も適当に見終わったら、すぐに帰りたいようだ。それぐらい、繁華街を歩くのは嫌なのだった。まあ、俺だって似たような気持ちになるのだが……。
巡回が終わると、署へ戻っていく。飲み屋や風俗店、クラブなどが軒を並べる通りはやさくれた人間たちが多数いた。警官を見ると、手出しは出来ないのだが……。歩きながら、改めて思っていた。この街も物騒だなと。
刑事課に戻り、午後五時まで詰めた。署内にはたくさん電話があり、内線で繋っているのだが、実に多くの電話が寄せられる。大抵、繁華街なりの苦情の類が多い。一々真剣に相手していると疲れるのだが……。
翌日も普通に午前八時二十分には出勤した。クリスマスで、夜はこの街も荒れそうだ。夜間の警備は夜勤のデカたちが請け負ってくれている。日勤の刑事には直接関係ない。朝から課内で勤務していると、相方とも否応なしに顔を合わせる。吉倉はタバコを吹かしていた。
「今日は内勤だね?」
「ああ。……昨日は街見て回ったからな。まあ、怖気が振るうんだけど」
俺の言葉に吉倉が反応する。タバコを吸いながら、立ち上げていたパソコンの画面を見ていた。相方ものんびりしている。大都市に常駐する警官だとは思えないぐらい。まあ、この男もマイペースさが売りなのだろうが……。
今頃、警視庁のデカたちがオールバル島内を捜索しているだろう。横取りされたヤマだ。勝手にすればいい!気持ちのぶつけようがないのだが、そういった言い方で罵るしかない。これからもいろんな事件に遭遇すると思うのだが、所轄にいる限り、捜査員としては弱い立場に立たされるだろう。それはそれで一向に構わない。割り切っているのだった。
昼になり、課内で昼食を取る。取られた出前の丼物を食べながら一息つく。心身ともに疲れていても、デカとしての仕事はやるしかなかった。もちろん、合間に上手く休憩を取る。仕事漬けなのだし、逃げられない。
吉倉も自分のデスクに座り、パソコンのディスプレイを見ている。心中いろいろあってきついだろう。察していた。ここ新宿で巻き起こった事件の捜査が、海外にまで舞台を移して続けられているのだから……。警視庁の刑事たちも外国の島国にまで飛んでいる以上、必死で捜査すると思える。俺たちはそれを風聞でしか聞けないのだが……。(以下次号)




