第84話
84
その日も午後五時まで刑事課に詰め、時間が来ると、夜勤のデカたちと入れ替わり、署を出る。疲れていたのだが、ちゃんと前を見据えて歩く。街はざわついていた。明日がクリスマスイブなので、飾られたツリーやイルミネーションなどにライトが点灯している。
地下鉄を乗り継ぎ、自宅に帰り着いてから、スーツを脱ぐ。部屋着に着替えて、ゆっくりし始めた。夕食を自炊し、取ってから入浴する。やや熱めのシャワーを浴び、全身を洗って、体を温めた。
午前零時にはベッドに入って眠る。冬場なので、遅くまで起きておくと、いくら暖房が利いていても風邪を引く。一度就眠すると、朝まで目が覚めない。それに一定の緊張感があるので、朝方はすぐに起きれるのだ。
イブの日の朝も午前六時には起き出し、コーヒーを一杯淹れて飲んだ。上下ともスーツに着替えて洗面し、カバンを持って、午前七時半前には自宅を出た。
地下鉄に乗り、新宿へと向かう。朝のラッシュがあったが、遅れることなく、午前八時二十分には署に着いた。刑事課へと入っていく。吉倉がいて、
「おはよう、井島」
と言ってきた。
「ああ、おはよう」
「また内勤で疲れるよな」
「うん。……でも、仕方ないよ。警察官の仕事なんて、所詮こんなものだから」
そう言い、軽く息をついた後、デスクに座る。パソコンを立ち上げて、いつも通り警察の捜査情報サイトを見た。警視庁の捜査員がすでにオールバル島入りし、現地を探っているらしい。まあ、捜査から外されたのだから、そう気には掛けてなかったのだが……。
この季節、新宿の街は荒れる。特にクリスマス前後は歌舞伎町が乱れるのだ。警戒レベルを上げた方がいい。所轄も本庁の指図の下、そういった方針で動いていた。
昼になり、出前のラーメンを啜る。寒いから、温かい食べ物がいい。刑事課内は交替で食事休憩を取っている。午後からは吉倉と共に、街の見回りに行くつもりでいた。新宿では九竜興業の人間たちが幅を利かせている。放っておくと、ヤツらは一般人相手に何をするか分からない。十分気を付けていた。もちろん、署のマル暴に頼むことも多々ある。あの人間たちは暴力団相手に慣れているので。
午後一時過ぎ、寒風に吹かれながら、街へと出た。踏み締めながら、歩いていく。何かと喧騒に満ちた新宿の街を。(以下次号)




