第78話
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その日、午後六時を回る頃まで外にいて、署に戻ってから、立ち上げたままにしていたパソコンに向かう。捜査本部内は閑散としていた。刑事課フロアには夜勤の刑事たちがいて、日勤のデカと入れ替わる。仕事を済ませて、そのまま帰宅した。
自宅に帰り着くと、麗華がいて、夕食を作ってくれていた。
「ああ、来てたの?」
「ええ。今夜お店が休みだし、勇介も疲れてるだろうって思って」
彼女がそう言い、笑顔を見せる。カバンを置き、部屋着に着替えた後、一緒に食事を取った。ゆっくりし続ける。夜は休む時間だと思い。確かに日々きつい。特に外回りで村上を追うようになってから、ドッと疲労が出てきた。限界がある。刑事である前に人間なのだから……。
麗華も普段きついだろう。ホステスは何かと気を遣う商売だ。それは十分分かっている。おまけに客相手で何をされるか分からないのだし……。食事後、混浴し、同じベッドで絡む。一際密に、だ。冬の夜が更けていく。ゆっくりと。六時間睡眠で慣れてしまっているのだが、たまにはたくさん眠りたいと思うこともある。もちろん、それは不可能事だ。体が短眠のリズムを覚えてしまっているのだから……。
翌朝午前六時には起き出し、脇で眠っている麗華を起こさないようにして、キッチンでコーヒーを一杯淹れて飲む。上下ともスーツを着てから、署に行った。疲労はあったのだが、そうも言ってられない。通常通り、事件捜査が待っている。
午前八時過ぎには帳場に着き、デスクにいた吉倉に、
「おはよう」
と言った。
「ああ、おはよう、井島」
「今日も捜査だよね?」
「うん。早くホシ挙げないと、ヤマが終わらないからな」
相方も捜査には能がないのだが、仕事のことは一通り認識しているようだ。今頃自宅マンションで遅い朝食を取って、その後、部屋を出る麗華の様子を一瞬想像したのだが、それは記憶の奥底に封印しておいた。
午前九時にはスーツの上からコートを一枚羽織り、署を出て、街を歩き出す。新宿区内を回った。連日の捜査で足が痛いのだが、仕方ない。街を見回る。ホシがいないかどうか確かめながら……。
時折、他の所轄の刑事と鉢合わせになる。一言「おう、お疲れ」などと言い合いながら、外回りを続けた。互いに暇はない。特に昼間の時間は貴重だ。一番仕事が進むからである。
だが、村上も福野富雄も見当たらない。結局、もうこの街にはいないだろうと思えた。まあ、高飛びするなら日本の果ての果てか、もしくは海外などだ。上の捜査方針を聞かないと分からない。あくまで俺たちは下っ端なのだから……。
街の定食屋で揃って昼食を取った後、また歩き出す。重たい体を引き摺りながら……。足が丸太のようになり、痛くなる。だが、堪えて歩き続けた。捜査のため、我慢することもある。人間誰でも、そういったことの一つや二つは当然あるのだし……。(以下次号)




