第77話
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その日も午後六時半を回る頃まで外を捜索し、署に戻ってから、スタンバイしていたパソコンに向かった。キーを叩き、捜査報告などを付ける。午後八時には署を出て、帰路に着いた。新宿駅まで歩き、地下鉄に乗って自宅へ戻る。疲れていたのだし、帰り着くと、すぐに部屋着に着替えてシャワーを浴びた。体が十分温まった後、ベッドに入る前に少しだけ本を読む。そして午後十一時半を回る頃には眠った。
翌朝、午前六時には自然と目が覚める。起き出し、コーヒーを一杯淹れて飲んだ。上下ともスーツに着替えてカバンを持つ。扉に施錠し、外へと歩き出す。最寄りの地下鉄の駅へと向かった。朝のラッシュに巻き込まれたのだが、遅刻せずに午前八時二十分には署に入る。パソコンを立ち上げて、朝方いつもチェックする警察の捜査情報サイトを一巡した。
吉倉がいて、
「おう、井島、おはよう」
と言ってくる。
「ああ、おはよう」
「今日も外だぞ。辛いけど、行こうな」
「うん。だいぶ冷えるけどね」
そう返し、しばらくマシーンのディスプレイを見つめていたが、やがて午前九時の窓口業務開始時刻には署外に出る。街を歩いていった。スーツの上にコートを羽織って。
これと言って手がかりのようなものはない。だが、他の警察署の刑事たちも動いてくれている。必死になっていた。福野富雄や村上を逮捕しないと、事件は解決しない。それに村上が仕出かしたことは、警察官として許されないことだ。平気で人を殺し、持ち物を奪い去った。強盗殺人と言うが、まさにその通りだ。
昼になり、近くのコンビニでパンとおにぎり、それに缶コーヒーを買って、昼食を済ませた。そしてまた午後からも捜査を続ける。連日新宿区内を回っているのだが、犯人は見つからないし、どうすることも出来ない。このまま上の人間たちの言う通り探し続けるか、それとも何か別の手を打つか?ずっと考えていた。
歩きながらも、試行錯誤する。刑事も楽じゃない。きつい仕事だ。特に刑事課や捜査一課などのデカは強盗や殺人などで絶えず凶悪犯に接するから、危険である。身構えていた。勤務時間中ずっと。
街を歩く。繁華街には人が溢れ返る。悪の街が随所にあるが、危険地帯でも避けられない。そういった場所にこそ、刑事事件のホシが潜伏している。じっと前を見据えながら、駆け足で通っていった。
犯人は見つからない。もちろん、このヤマが長期戦になるのは、薄らと分かっていた。根気強くやっていこう。そう考えていた。それに火急になると損をする。一つずつやっていく。焦らず腐らず。相方もそう思っているようだ。堂々と歩きタバコしながらでも……。(以下次号)




