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事件  作者: 竹仲法順
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第76話

     76

 その日も午後六時過ぎには署に戻り、スタンバイ状態になっていたパソコンに向かって、残務をこなす。確かにほぼ丸一日立ちっぱなしだと、足腰も疲れる。だが、そうも言ってられない。また夜間は体を休め、疲労を取ってしまってから、通常の捜査へ戻る。

 月曜を一日挟み、火曜も通常通り午前八時二十分には署に出勤した。吉倉がいたので、

「おはよう」

 と一言挨拶する。

「ああ、おはよう」

 相方はタバコを吸いながら、起動していたパソコンの画面を見ている。捜査にはあまりの能のない男だ。全然変わらないな。そう思えていた。体力勝負で来るから、俺の方も幾分身構える。コーヒーを一杯淹れて飲みながら、マシーンを立ち上げた。警察の捜査情報サイトを見る。逃亡中の村上のことは一定量の情報の記載があった。

 だが、現役警官が殺人を実行するというのは、まるでサスペンスドラマやミステリー小説などと同じで違和感があった。そういったものを見たり、読んだりはするのだが、現実に目の前に起こっていると思うと、怖気が振るう。

 その日も午前九時から相方と組み、捜査に出かける。体の芯は重たい。生身の体を抱えるようにして歩いていく。歌舞伎町交番に行くと、上下とも制服姿の篠田がいて、

「ああ、井島巡査部長、吉倉巡査部長、お疲れ様です」

 と言ってきた。労いに一瞬俺も表情が綻ぶ。そして言葉を発した。

「篠田巡査部長、歌舞伎町は大丈夫ですか?」

「ええ、何とか。――年末年始は忙しいんですが……」

「それは街が賑わうから?」

「はい。私も疲れます」

 篠田が苦笑する。歌舞伎町は九竜興業関係者が絶えず出入りしていて、銃器やクスリなどを流しているのだ。いずれ関係者を引っ張り、街自体を浄化する必要性がある。もちろん、繁華街など一度や二度清い水を注いでも、また汚れてしまうのだが……。組対の仕事は増える。街が活性化するたびに。そして悪は蔓延る。根っこが完全に取れてないのだから……。

 篠田に一言言った後、また街を歩く。スーツの上にコートを羽織っているので、防寒は出来ていた。歩きながら、村上がいないかどうか探る。ずっと新宿区内を捜索しているのだが、マル被の身柄は確保できてない。どうにも捜査は行き詰まっている。やはり高飛びなどしてるんじゃないか?そう思えていた。

 村上が北新宿の雑居ビル内で東川を階段からの転落に見せかけて殺害し、データを奪い取ったのは間違いない事実だ。それが警察のアキレス腱だと知っていて……。岩尾ら警察幹部はずっと沈黙を守っている。フラッシュメモリに五億の裏金の実態が詰まっているのは隠しようがないからだ。とにかく上の人間たちは迅速な幕引きを図ろうとする。村田たち検察を煙に巻くようにして……。まあ、俺たち下の人間には幹部たちの事情や内情は分からなかったのだが……。(以下次号)


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