第75話
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また一日が終わり、午後六時過ぎには署に戻ってきて、残務をこなした後、帰路に着く。疲れていた。新宿駅から地下鉄に乗り込み、電車に揺られながら、自宅へ戻る。足元が冷えていて辛い。目的の駅で降り、自宅まで歩いて帰った。
そして土曜を挟み、日曜になる。昼間はずっと新宿区内を歩いていたのだが、村上は逃げのびている。どうも勘が外れたような気がしていた。いっそ警察官としての誇りをかなぐり捨てて、海外へ高飛びでもしてるんじゃないかと。体のいい逃亡先なら、島国などが赤道直下にいくらでもある。可能性が無きにしも非ずだ。
街を歩く。繁華街は人が多数集まり、尋常な様子じゃない。特に街の中枢部は人間が大勢いた。人口密度が高い。思う。この中に紛れ込んでいるかもしれないと。だが、そうであっても簡単に判断は付かないのだ。吉倉と一緒に人ごみに紛れ込み、探し続ける。
東川幸生殺害の件では、俺たち新宿中央署刑事課の人間も署を超えて協力している。その代わり、角井卓夫殺害事件で容疑者である福野富雄の捜索はうちの署の仕事だが、バーターで他の所轄の人間たちが追ってくれている。よくこういった捜査上での交換関係があった。所轄でも事情があって、他の警察署にヤマを頼むことがある。別に新宿だけでのことじゃない。日本中どこでもそうだ。デカは臨機応変に動く。
日曜の昼、ちょうど西新宿の一角にあるファミレスで吉倉と食事した。肉料理を食べてスタミナを付ける。食事後、コーヒーを一杯ブラックで飲み、眠気を取ってしまってからレジで食事代を支払い、歩き出す。まあ、連日の捜査でいろいろあって、疲れていたのだが……。
あてどなく街を彷徨う。まあ、新宿は巨大な場所だから、それに呑み込まれるようにして歩いていく。合間にスマホで捜査本部や他の捜査員と連絡を取り合う。連携を密にしないと、解決する事件も解決しない。
二件の殺人事件を巡り、警察内部は緊迫していた。東川幸生が持っていたフラッシュメモリには五億の裏金のデータが詰まっていて、それを奪ったのが村上だと判明していたからだ。連日マスコミは警察の不祥事を過熱報道している。その矛先が警視総監である岩尾や、他の幹部など、警察上層部に向かうのは避けられなかった。
そして村田ら特捜も動いていた。あの検事たちは凄まじい。警察だって特捜の捜査は極度に警戒していた。令状一枚で身ぐるみ剥がされるので……。
五億の裏金は適正に処理されることなく、闇へと消えた。不祥事は不祥事で糾弾される。まあ、上の人間たちがどう判断するかは分からないのだが……。(以下次号)




