第71話
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その日も午後五時には仕事が終わり、捜査本部を出てから、署を後にした。冷える街を歩き出す。疲れていた。新宿の街を歩きながら、辺り一帯の光景を見る。繁華街は騒がしい。通りを絶えず人が行き交う。駅へと向かい、歩いていく。地下鉄がないと、出勤に支障を来たす。もちろん、車の運転免許は持っているのだが……。
そして翌日も通常通り仕事があり、淡々とこなした。デカはきつい。昼食を挟みながらも、丸一日帳場に詰めた。月岡も吉倉も、他の捜査員たちもずっとデスクに着いたまま、黙っている。
ずっと特捜の動きが気に掛かっていた。あの精鋭検事たちはしっかりと対象を捉えているだろう。捜査に掛けては紛れもなくプロだ。特に汚職事件などでは、存分に力を発揮する。傍から見ていても、違和感は全くない。令状一枚でどこにでも入っていくのだから……。
また一日が流れ、その翌日の朝、午前六時には起き出し、スーツに着替える。コーヒーを一杯淹れて飲みながら、気持ちを落ち着けた。朝の一杯が実にいい。それに常日頃から思っていた。決して焦らないと。
カバンを持ち、部屋を出てから歩き出す。体の芯に疲れは残っていた。だが、そうも言ってられない。時間に余裕を持ち、署へと行く。朝のラッシュに巻き込まれながらも、出勤した。
それにしても、二件の殺人事件の捜査は膠着していた。角井卓夫殺しのマル被である福野富雄も、北新宿の雑居ビル内の階段で、東川幸生を転落死に見せかけて殺害した人間も行方を晦ましている。今現在、新宿区内の全所轄が捜査中だ。何も管轄である新宿北署や新宿中央署だけの問題じゃない。飛び火している。他の警察署へと。
だが、よくよく考えてみれば、いつかは捜査も終わる。確かに強盗や殺人などの事件に公訴時効はないのだが、いずれ警察だって闇に消えた事件の捜査は投げ出さざるを得ないのだ。だから、目の前の状況などそう気にしてない。警察だって万全じゃない。警官である前に人間なのだから……。
とにかく事件解決のため、いろいろと手を尽くす。捜査に役立つ情報は、集められるだけ集めていた。同時に検察の動きも十分警戒する。特捜が警視庁に乗り込んで来て、幹部を逮捕した後、庁内を捜索したりするとなると、無茶苦茶なことになってしまうからだ。気に掛けていた。存分に。(以下次号)




