第70話
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その日も昼は出前で取られた丼物で食事を済ませた後、午後からも捜査本部に詰め続けた。コーヒーを淹れて飲み、目を覚まして、デスクでパソコンに向かう。焦らずに、目の前のことを一つずつこなしていくつもりでいた。そういった姿勢は身に付いている。いつも冷静沈着だった。
そして一日の仕事が終わり、捜査員たちに一言言って帳場を出る。疲れていたのだが、街を歩き、雑踏に紛れ込むと、徐々に気も紛れていく。街は慌ただしい。十二月の新宿は大勢の人がいて、これから年末まで街はヒートアップするだろう。
捜査案件を抱え込むと、気が重たくなる。だが、楽観もあった。いずれは事件も解決する。そういった楽天的な考え方が、ここまで俺を生かしてきたと言っても過言じゃない。芯では強さがあるのだ。困難にめげないという。
自宅に帰り着き、食事と入浴を済ませて、また一日が終わるのを感じた。あっという間に毎日が過ぎ去る。日中は暇がない。その代わり、自宅マンションでの夜間の六時間の睡眠で頭と体が休まる。そして昼間は捜査本部に詰めるのだ。刑事は大変な仕事なのだが、慣れてしまった。
翌日日曜も本来なら休日なのだが、通常通り出勤する。午前八時二十分には署に着き、帳場に入って、パソコンを立ち上げた。吉倉が先に来ていて、タバコを吸いながら、マシーンに向かっている。相方もいろいろ考えているのだろう。いくら捜査に能がないと言っても。
新たな一日が始まり、また署内は騒がしくなる。向かいの刑事課では、朝から警官が電話応対などに追われていた。管轄内での住民のトラブルなどを扱っているのだろう。警察署に電話が掛かってこない日は、一日足りとてない。所轄の刑事も重責だった。警官だって人間だから、全部を背負うことは出来ないのだが……。
昼になり、また食事時になる。その日は出前じゃなくて、市販の弁当が配られた。腹が減っていたので、ガツガツ食べる。元々、食事はイケるのだ。空腹だと出来る仕事も出来ないと思っていたのだし……。
それにしても、村田たち特捜の動きが気になる。検察は本気で警察を立件する手筈なのだ。五億の裏金が警察上層部の人間たちによって使い回され、闇に消えた。これを調べない手はないと検察は息巻く。特捜関係者はすでに内偵などに動いているはずだ。いろいろと策はあるだろう。
何かしら、降りかかってくるものがあるかもしれない。怯えながらも、何とか捜査本部に詰め続けた。今しばらく検察の動きを様子見するつもりでいて。それに警察の上の人間たちは事を隠蔽しようと図るだろう。そうなった場合、おそらく検察は荒業を使うと思えた。逮捕権を持っているのだから、関係者を強制的に捕まえるだろう。逮捕状など、簡単に請求できるのだし……。(以下次号)




