第67話
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その日も午後五時になると、夜勤のデカと交代する形で捜査本部を出た。疲れはある。肉体もそうだが、メンタル面できつい。独りで新宿の街を歩いていき、人ごみに紛れ込む。繁華街一帯はネオンが灯っていた。いつもこの光景を見ている。夜になると、だ。
駅から、自宅方面に向かう地下鉄に乗り込む。電車に揺られながら、スマホを見ていた。目がチラチラする。眼精疲労は慢性化していたのだし、近視用のメガネは掛けっぱなしにしていた。視力が悪いのである。学生時代やっていた受験勉強などで近眼になっていた。まあ、仕方ないのだが……。
自宅に帰り着き、真っ先に暖房を付けた。冷えるから、すぐに部屋を暖めるのだ。スーツを脱ぎ、部屋着に着替えてから、キッチンに立った。夕食を自炊して取った後、入浴して髪や体を洗う。少し熱めのシャワーでもいい。そう思い、浴びた。
また一日が終わる。午前零時まで起きていて、ベッドに潜り込むと、すぐに寝入った。睡眠を取る。毎日六時間程度なのだが……。
午前六時には目が覚めて、出勤準備をしてから、午前七時半前には部屋を出る。時間に余裕を持ち、自宅最寄りの地下鉄の駅へと歩いていった。都心方面行きの電車に乗り、揺られる。いつもと変わりない。十二月の寒風に吹かれる。体が冷えた。
午前八時二十分過ぎに署の帳場に着くと、月岡も吉倉も他の捜査員もいて、すでに仕事を始めている。デスクに着き、パソコンを立ち上げてから、一通りサイトをチェックしていく。警察が十分な捜査情報を開示しないのは、おそらく二件の殺人事件に五億の裏金の件が絡んでいるからだろう。思っていた。不正を上塗りしていると。
だが、このまま流れに乗るしかなかった。実際、検察の動きに並行して、警察の捜査は進行中だ。行くところまで行くしかないだろう。角井卓夫殺しの容疑者である福野富雄は逃亡中だ。それに北新宿の雑居ビル内で転落死に見せかけて殺害された東川幸生は、警察関係者が口を封じた可能性が濃厚である。多数の人間の思惑が重なり、交錯し合って複雑だ。ここは踏ん張るしかない。
昼食の時間になり、出前で人数分のラーメンが取られていた。啜りながら、幾分ゆっくりする。いつも気ばかり急いていると、健康に悪い。食事時は寛ぐつもりでいた。
昼食を取り終えて、午後からも捜査本部に詰め続ける。思っていた。外にいる捜査員は大変だろうと。この寒さの中、外で動くのは辛い。そういったことは十分察していた。そして逸早く二件の殺しのヤマの犯人が捕まるよう願う。
特捜の動きは日々加速していると聞いていた。確かにそうだろう。地検の検事たちを甘く見るとまずい。まあ、上の人間が捕まれば、俺や吉倉たち同僚のように、下の人間は困るのだが……。検察は容赦ない。大規模な汚職事件などでも、活躍してきた人間たちなのだから……。(以下次号)




