第62話
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一日の仕事が終わり、午後五時になると、月岡や吉倉、それに捜査本部にいる他の刑事たちに一言言って出る。疲れはあった。それにやはり葛藤もある。検察の出方も問題だからだ。村田たち特捜の人間は事件を解決するためなら、いろいろな捜査手法を使ってくる。検察も単にガサ入れだけじゃなくて、他に打つ手が無数にあるのだ。今回のような事件でも、おそらく普通の人間が考え付かないようなことを考え付き、それで攻めてくるものと目された。警察官がホシだとすれば、それを上手く絡め取るだろう。思っていた。おそらく、東川幸生が殺害された北新宿の雑居ビルに事件当日出入りした警察官を調べ上げるところまで行きつくだろうと。
ネオンの灯った新宿の街を見ながら、駅へと歩いていく。悪の街は今夜も眠らない。繁華街には在日外国人が多数いて、夜な夜な盛り上がっている。常にそうだ。特に歌舞伎町は物騒である。並み居る店には暴力団員や半グレの人間たちが多数出入りしていて、いろいろとやって回るのだから……。警察も定時のパトロールが大変だ。悪い連中と遭遇すると、厄介なことになるのだし……。
帰宅してから、やや熱めのシャワーを浴びた。全身を洗った後、風呂場を出て、冷蔵庫に入れてあるペットボトルの冷たい水を口にする。そして寝室に入っていき、ゆっくりし始めた。読みかけていた刑事小説の続きを読みながら、午前零時になるのを待って眠る。
翌朝、午前六時には目が覚め、起き出した。一際寒いのだが、気が入れば、眠気も吹き飛ぶ。コーヒーを淹れて飲んだ後、上下ともスーツに着替える。そしてカバンを持ち、午前七時半には自宅を出た。
ラッシュに巻き込まれながらも、午前八時二十分には署に辿り着く。帳場に入り、またいつもの捜査員と顔を合わせた。吉倉が、
「井島、おはよう」
と言ってくる。
「ああ、おはよう」
端的に一言返し、デスクに着いてパソコンを立ち上げた。サイト閲覧時に必要なIDやパスワードなどを入力してページを開き、見る。目立った更新情報はなかったのだが、二つの殺人事件に関し、捜査員たちは鋭意ホシを追跡中だ。
地検は警察を対象として捜査するだろう。今度の事件が警察の裏金作りに便乗して起こされたものだとすれば、大問題だ。信用は地に落ちる。幹部も釈明じゃ済まされないだろう。おそらく関係者は逮捕となる。異例だった。警察が特捜に挙げられるのなど……。
コーヒーを一杯淹れて飲む。それからずっと詰め続けた。昼になると、出前の温蕎麦が来る。啜りながら、幾分気が抜けた。食事時はゆっくりするのだ。平時はピリピリしているので……。真向いの刑事課では、通常通り窓口業務が続いていて、婦警が電話応対などをしている。
時間が流れていく。警察も特捜の動きを警戒していた。いつ何があるのか、分からないのだから……。(以下次号)




