表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
事件  作者: 竹仲法順
61/230

第61話

     61

 その日も一日の勤務が終わると、署内の捜査本部を出て、外へと歩き出す。冬だ。街も冷え込む。歩きながら、新宿の街を見ていた。歌舞伎町の真ん前に歌舞伎町交番があり、篠田が常駐している。交番勤務時代は疲れ知らずだった。若かったから、フル回転で仕事をしていたのである。今はスーツ姿で刑事なのだが、昔とはまるで違う。それだけ加齢したということなのだけれども……。

 地下鉄を乗り継ぎ、自宅マンションに戻ってから、キッチンで食事を作る。独りで夕食を済ませた後、入浴し、午前零時にはベッドに潜り込んだ。また一日が終わっていく。最近、消化試合のような感じだった。毛布に包まれれば、安堵するのだし……。

 翌日、午前六時に自然と目が覚め、起き出す。コーヒーを一杯淹れて飲んだ後、上下ともスーツに着替えてカバンを持つ。そして午前七時二十分過ぎには部屋を出、通常通り出勤した。

 事件捜査があり、署内は常にピリピリしている。何かしら神経をやられた。だが、ここは何とか踏ん張るしかない。人生に逆風は続かないのである。いずれ順風になるのだ。そう思うと、心強かった。

 帳場に行くと、月岡や吉倉、それに他の捜査員もいて、すでに仕事を始めている。所轄と言っても、ここ新宿じゃ大きな方なのだし、署員も大勢いる。感じていた。ここにだいぶ馴染んだな、と。実際、街のトラブル等は俺たち警察官が扱う。抜かりはなかった。

 パソコンを立ち上げて、捜査関係のサイトを見ると、目ぼしい更新はないのだが、事件は陰で動いている。村田ら東京地検特捜部の検事たちが警察上層部の裏金作りに関し、対警察で捜査しているので、俺たちも苦しい立場ではあった。

 だが、不正を仕出かしているのは、上の人間たちである。下にいる警察官には何の罪もない。だから、責任を取るのは不祥事に加担した幹部連中だけでいいのだ。俺たち現場の刑事の仕事は常に犯罪者を取り締まることである。他には何もない。

 合間に席を立ち、フロア隅のコーヒーメーカーでコーヒーを淹れて飲みながら、力を抜く。人間は肩ひじを張り過ぎると、疲れてしまう。程々でいいのだ。苦しいこともいずれ楽しい状況に転じるだろうから……。

 それにしても、東川幸生を殺害した警察関係者は一体何者だろう?訝しんでいた。階段から転落死させて殺した後、データの詰まったフラッシュメモリを抜き取って逃げている。尋常じゃない。殺人と盗犯をセットでやってのける警官はきっと今頃どこかで笑っているだろう。あのデータが物証としてなければ、警察の裏金の実態は暴かれないのだから……。

 時間が流れていく。幾分息の詰まる捜査本部にいながらも……。(以下次号) 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ