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事件  作者: 竹仲法順
60/230

第60話

     60

 辛く悩ましい一日が終わると、気持ちは解放される。勤務が終わり、捜査本部を出てから、すぐに帰宅した。自宅には麗華がいて、食事を準備してから、待っていてくれた。一言「ありがとう」と言ってスーツを脱ぎ、部屋着に着替える。そして共に夕食を取った。

 その夜、混浴してからベッドで絡む。ゆっくりと性交し続けた。達した後、互いに呼吸を整える。一夜が更けて、すぐに朝になった。午前六時には目が覚めている。彼女はまだ眠っていたので、起こさないようにしてキッチンへ行き、コーヒーを一杯淹れた。飲んだ後、上下ともスーツに着替えて出勤する。疲れはあったのだが、何とか持ちそうだ。

 午前八時前に帳場に着くと、フロアには月岡がいた。この上司は大抵朝が早い。部下たちが来る前に一仕事なのだろう。

「おはようございます」

「ああ、おはよう」

 言い交わして、互いにデスクで仕事を始める。月岡が警察上層部の使い回した五億の裏金の件や、それを捜査する村田たち特捜の動きを察知していて、いろいろと手を尽くしているのは見えていた。その件に関しては何も言わないから、不気味だ。

 だが、いずれ事のあらましは分かる。殺人事件を捜査する警察も、それを側面から見据える検察も、そして今回の裏金の件に関することも、裏側で絡んでいるのは警察の上の人間たちだ。実に明瞭なのである。思っていた。警察が自分たちの不祥事を殺人に便乗して、始末しようとしているなと。やり方は汚いのだが、実際そうだった。

 その日も他の捜査員は午前八時二十分過ぎに捜査本部に入ってきて、各々仕事をし出す。吉倉も分かっているようだった。事の大略が。警察内では刑事たちが複雑に思惑を絡ませる。一つずつパズルが嵌められるように、いつかは事が成るだろう。捜査は水面下で進行中だった。

 麗華が自分の自宅マンションに戻った後、また一日が明ける。勤務疲れはあったが、普通に朝から帳場内にいた。パソコンを使い、捜査関連のサイトなどを見ながら、同時に検察の動きも見ていた。裏金作りを主導した警官は怯えているだろう。五億という額は警察組織にとって、極わずかな金だ。だが、紛れもなく公金である。不正に流用されれば、罰則が科されて当然だった。

 警察の中に東川幸生を雑居ビル内の階段で転落死させ、害者が所持していた、データの詰まっているフラッシュメモリを奪い取った人間がいる。それにこの件がここ新宿を拠点とする九竜興業関係者や、その構成員で角井卓夫を殺害し、死体をホテル一室に遺棄した福野富雄と無関係であるはずがない。全ての事件が警察組織というもの一つで繋がっている。難がありそうだ。捜査には。もちろん、警察としてもいずれは片を付ける。

 勤務の合間にコーヒーを淹れて飲みながら、相方の様子を窺う。相変わらずタバコを吸いながら、パソコンの画面に目を落としていた。思う。この男はこの男なりにやっているのだろうと。干渉することもなければ、口出しもしない。時が流れてゆくのだが、俺の方も勘で何かを掴みかけていた。東川を葬ったホンボシや、陰で事件を操る人間たちのことを漠然と。(以下次号)

 


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