第59話
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その日も一日が終わり、午後五時には捜査本部を出て、署外へと歩き出す。疲れていて帰宅前に新宿駅のすぐ近くにあるおでん屋で夕食を済ませてから、地下鉄に乗り込み、自宅マンションへと戻った。電車に揺られながら、スマホを見る。さすがに眠気までは差さなかったのだが……。
一夜明け、翌日も本来なら休日であるにもかかわらず、通常通り出勤した。上下ともスーツを着て、ネクタイを締めている以上、格好は堅気で自然と仕事に馴染む。
帳場に詰めながら、ずっと考えていた。なぜ警察上層部は裏金などを作ったのだろう?警察自体、警察庁が元締めで組織が大きいのだし、予算など潤沢に回ってくるのだから、不正な金など作らなくても済んだのに……。もちろん、いつの時代でも政治家や官僚などは悪事を働きたがる。何かに執着するのは致し方ないことだった。組織の一員として、そう思うこともある。
翌日月曜は祭日で、朝方、手元のスマホに麗華からメールが届いた。<今夜お店が休みだから、来るわね>と。一言だけだったが、ちゃんと用件が伝わる。返信ボタンを押して<分かった。じゃあまたね>と打ち返し、送信した。そしてそのまま署へと向かう。疲れたなどとは言ってられない。事件捜査があるから、休めないのだ。
署に着き、刑事課を通り抜けていくと、人間は疎らだった。窓口業務が休みだと、勤務する警官も減る。自然だ。捜査本部に入り、吉倉に、
「おはよう」
と挨拶した。
「ああ、おはよう」
相方は銜えタバコのまま、パソコンの画面に見入っている。何か掴んだわけじゃないだろうが、東京地検特捜部が警察に対する捜査を始めた以上、泥仕合になりそうだった。村田も部下の岡倉や韮山を使い、警察上層部の人間たちを捜査対象としていて、おそらく不祥事が公になるのも時間の問題だと思えた。上の人間たちも何かを考えるだろう。
五億の裏金は一つの架空口座内で管理されていた。その口座は金の出し入れをする際、使われていて、使用した人間は足が付かす、個人情報等は一切特定されない仕組みになっている。いざとなれば、口座さえ閉じれば、出入金の記録は全部伏せられる。何とも便利な代物だ。それを村田たち特捜の人間が探るつもりのようだ。仮にその口座の存在や、出し入れの記録などが暴露されれば、警察上層部は総退陣、そして総逮捕となる。思っていた。危険だと。警察に火の粉が降りかかると、信用問題にもなる。何とかならないか?被害を最小限度に食い止めるために。警視総監である岩尾にワッパが掛かったら、警察の信頼が失墜するのだから。
その日は一日中悩んでいた。夜、麗華が来てくれることは嬉しいのだが……。(以下次号)




