第58話
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一日が終わり、街にはまた夜の帳が降りてくる。署内の捜査本部にいた刑事たちに一言言って帳場を出てから、街を歩き出す。疲れていたのだが、足取りは軽い。明日も通常通り勤務があり、心はやや重たかった。事件解決までは仕方ない。そう思い、何とか踏ん張っていた。
歌舞伎町にはネオンが灯っている。あの街の悪は温存されたままだ。篠田も大変だろう。歌舞伎町交番は単なる派出署とは言え、一際危険なのだし……。察するところがあった。昔は交番勤務だったのだから。それに交番の駐在は街の何でも屋なのだし……。
新宿駅の地下鉄のコンコースから、電車に乗り込む。混雑していたのだが、仕方ない。ラッシュに巻き込まれて、疲労が増す。大抵、午後六時前後は夕方のラッシュがあり、覚悟はしているのだが……。
自宅マンションに帰り着き、スーツを脱いで部屋着に着替えた。キッチンに立ち、夕食を作って、独りのテーブルで食べる。幾分気が抜けた。食事後、入浴して寛ぐ。午前零時まで起きていて、日付が回る頃には眠った。
翌朝、午前六時には目が覚め、起きてから上下ともスーツに着替える。そしてコーヒーを一杯飲んだ後、カバンを持ち、部屋を出た。
警察が殺人事件を引き起こした側だとなると、当惑する。やはり、東川幸生を雑居ビル内の階段で転落死に見せかけて殺害したのは警察関係者なのか?警察上層部の使い回した五億の裏金の件に関し、データを持っていた人間の口を封じる必要があったのかもしれない。普通はそこまでしないのだが、警察も身内の不正は強引に隠蔽するのか?解せなかった。
署に着き、刑事課を通り抜けてから、捜査本部へ向かった。そして月岡や、吉倉たち同僚刑事に挨拶した後、帳場に詰める。狭い部署は何かと窮屈なのだが、どうしようもない。思っていた。これが刑事の職場環境の実態であり、現実だと。
北新宿の雑居ビル内の防犯カメラの解析は手間取っていた。一つのビルに複数台のカメラが設置してあるからだ。全部を照合するとなると、時間が掛かる。それに仮に犯人がカメラの死角に映っていた場合などは、問題外だ。おそらく警察関係者なら、カメラの位置を予め探っておくこともするだろう。とにかく難しい捜査だった。
ホシと東川が接触し、害者が階段から突き落とされて、転落死させられた後、データの詰まったフラッシュメモリが手から抜き取られた――、これが警察の捜査関係者の大方の見方である。おそらく新宿北署のデカたちも、そういった推理・推察で動いていると目された。
そしてその日も過ぎていく。昼を挟み、午後も時が流れていった。隣のデスクにいる吉倉もタバコを吸いながら、パソコンに向かっている。まあ、この男も相方なのだが、捜査にはあまり能がない。こういった警官もいるなと言った程度で片付けてよさそうだった。もちろん、俺個人の感じ方なのだが……。(以下次号)




