第54話
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また一日が終わる。現役の刑事は捜査に没入するのだし、本来的には俺だってそうすべきなのだが、何かしら疲れていた。体が重い。鈍重と言うのか?日曜の勤務が終わった後、頭も体もすっきりしないまま帰宅する。
自宅で食事と入浴を済ませ、午前零時には休んだ。麗華は最近来てない。きっとホステスの仕事が忙しいのだろう。水商売の女は何かしら悪い色に染まる。メイクや香水、食べるもの、着るもの、それにプライベートまで……。普通の女性とは訳が違うのだ。もちろん、街でも銀座などにあるクラブは勤務している女性も礼儀や折り目が正しく、しっかりしている。華やかで、だ。俺のイメージしているのは、新宿の裏通りなどにある場末のバーの女の類である。あの手の女性たちは若かろうが、こっちから願い下げだった。
月曜を挟み、火曜の朝、上下ともスーツを着て、カバンを持つ。そして署へ出勤した。昨日は大したことがないまま、終わっている。どうも捜査は行き詰まった。角井卓夫殺しのマル被である福野富雄は逃亡中なのだし、東川幸生が転落死に見せかけて殺害された事件も有耶無耶となりつつある。二件とも警察にとっては降りかかった災難だった。もちろん、捜査員は必死になっている。少しでも解決に近付こうと。
刑事事件は物証があって、科学的捜査が出来ても、時と共に色褪せる。そういった代物なのだ。目を光らしていた。ここ新宿にも魔の手が潜んでいる。殺人犯と九竜興業、それに石井謙一のような歌舞伎町の悪玉が巧妙に絡み合いながら……。警戒していた。ヤツらは警察を舐めているのだ。俺たちが本気になれば、本庁の応援を得て全面戦争し、組織を叩き潰せる。そのことは常に脳裏に留めていた。
その日、朝から通常通り捜査本部に詰める。パソコンに向かい、警察の捜査情報関連のサイトなどを見ていた。更新情報が皆無に等しく、改めて捜査が座礁・転覆したのを感じる。だが、焦りは禁物だ。そう思っていた。
昼になると、食事になり、俺も吉倉も出前で取られていたうどんを食べる。正直なところ、食欲はあまりなかったのだが、とにかく胃に何か入れておこうと思い、食べ物を詰め込んだ。
吉倉が脇から察したようで、
「井島、食欲ないのか?」
と問うてきた。
「ああ。事件捜査でストレス掛かってるから、きついよ」
「まあ、今しばらくの辛抱だよ。ずっと続く苦しみなんてない。いつかは終わるんだから」
「そうだな」
端的に頷き、うどんを啜る。時間はないのだし、帳場は開かれたままだ。だが、吉倉の言葉通り、永続する苦痛や苦境などない。だから、常にマイペースでいた。葛藤もその原因がなくなれば、終わってしまう。人の世など泡沫だ。食事後、持ってきていた胃腸薬を飲み、またデスクで勤務し始めた。誰もが同じである。警官だって、司直である前に人間なのだから……。
捜査で組対が動くかどうかが、気になっていた。街の裏側で一騒動起こると思うと……。(以下次号)




