第47話
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その日、午後五時には捜査本部を出て、署内から外へと向かう。麗華が来るとメールで言っていたので、気持ちが温まる。帰宅したら、夕食が出来ているだろうと思い、少し気分が高揚するのを感じた。地下鉄を乗り継ぎ、自宅マンションに戻る。都内は何かと物騒だ。ずっと住んでいても、そう感じてしまう。特に新宿は危険だと思っていた。基本的に繁華街なのだし……。
帰り着くと、彼女がいて、テーブルに二人分の食事があった。
「ああ、こんばんは、麗華」
「ああ、勇介、お仕事お疲れ様」
「仕事休みなの?」
「ええ。……店も定期的に休みになるのよ。ホステスだって、ずっと働いてるわけじゃないし」
麗華がそう言い、軽く笑みを見せる。俺の方が部屋着に着替えると、見計らったように軽く息をつき、
「じゃあ、食べましょ」
と言った。頷き、揃って食事する。夕食は美味しい。その夜は寛いだ。食事を取った後、混浴し、ベッドの中で熱く交わった。明日も通常通り仕事なのだが、気分はいい。午前零時には眠り、翌朝も午前六時には自然と目が覚めて起き出す。スーツに着替えて、二人分コーヒーを淹れた。まだ彼女は眠っている。起こさないようにして、そっと自宅を出た。
そしてちょうど丸一日が経ち、翌日の朝も通常通り署に出勤した。日曜でも朝から業務がある。実質、帳場に詰めているだけなのだが、暇はない。捜査本部も会議がなく、これと言った有力な情報もなしに事件を追う形となった。それだけ所轄には基本的な捜査能力が欠如しているということだ。<本庁>や<本店>と通称される警視庁も、俺たち所轄には冷たい。
朝、パソコンで警察関係のサイトを見ながら、思っていた。今回の事件捜査のカギはやはり被害者である東川幸生が持っていたフラッシュメモリにあると。裏金の件が情報として詰まっていれば、尚更そういった風に気が向くのだ。改めて思うに、難渋しそうな事件である。一筋縄ではいかないと。
吉倉が横のデスクでタバコを吹かしていて、煙臭さとニコチン臭が漂ってきている。この男も相変わらずだなと感じていた。ニコチンは猛毒なのだが、きっと依存症なのだろう。一歩退く形で見ていた。
月岡も管理官席にいるのだが、ずっと手元のパソコンのディスプレイに目を落としている。時折、目を上げたかと思うと、また画面を睨む。この上司は警察の作った五億の裏金の件を知っているのだろうか?あの闇で処理され、同じように闇の中で消え去った金が今回の事件に反映されているのを……。
いずれにしても警察としてはホシを挙げるまで一歩も引けない。それに角井卓夫殺しのマル被である福野富雄が九竜興業の構成員である以上、あの組織ともいずれは決戦になるだろう。おそらく警視庁も組対を動かす用意があるものと思われる。ゆっくりする間はない。今ここでしっかりくさびを打っておかないと――、そう感じていた。
都内でも都心は慌ただしい。何かとつれないのが、この新宿という街なのである。(以下次号)




