第46話
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抱えている角井卓夫殺害事件と、新宿北署の捜査案件である東川幸生殺害のヤマは、どっちも難航していた。二つの事件が緻密に入り組んでいる。確かに新宿区内の所轄が連携して捜査を敢行しているのだが、ホシはまだ捕まらない。それに東川の持っていたフラッシュメモリには、警察の作った五億円の裏金に関するデータが詰まっていたと目される。何かしら、複雑なものを感じていた。
だが、全く袋小路に入ったわけでもない。角井を殺した犯人は現時点で福野富雄と断定されているからだ。福野を捕まえればきっと、殺人に至った経緯と、事件の背後関係が分かるだろう。思っていた。外にいる捜査員も福野を追っていて、見つけ次第逮捕するだろうと。
ちょうどその週の金曜も朝から捜査本部にいた。パソコンに向かいながら、帳場に詰める。いろいろと複雑な事情があっても、休めない。何せ、勤務先の署が殺人事件を抱え込んでいるからだ。気になることなど、山ほどあった。だが、ここは踏ん張るしかない。そう思って淡々と仕事をこなす。
昼食時に丼に入ったラーメンを啜っていると、スマホにメールが届いた。開くと、麗華からだ。<今夜お店が休みだから、来るわね>と打ってあり、文章が絵文字で綺麗に飾ってある。<分かった>と打って送り返す。そして食事を済ませた後、コーヒーを一杯淹れた。神経がすり減っている。自分でも分かるのだ。だが、怯むわけにいかない。そう思い、デスクに座った。
屋外の捜査員も、十一月という冷え込む時期にずっと福野を追っている。一口に新宿と言っても狭い。それに繁華街から遠ざかると、普通に人口は減るのだ。管轄内にホシがいない可能性も高い。犯人が高飛びしていることも考えられた。まあ、いろんなケースを想定して警察も捜査を行っているのだが……。
じっくりと攻めるのが、今回のような連続殺人事件にはいいのかもしれない。そう思うと、焦燥感も失せる。まあ、もちろん警察も想定される中で常にベストな選択肢を取るのだ。何よりもいろんな情報が必要となる。そして俺たち警察はヤマを追い続ける。この新宿という悪の街にいながら……。(以下次号)




