第43話
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東川幸生が持っていたと目されるフラッシュメモリには、一体何のデータが入っていたのだろう?気になってしょうがない。事件の直接の引き金は、あのフラッシュメモリ内の情報だと思われるからだ。だが、警察内部の人間たちはその件に関し、一切沈黙を守っていた。誰も何も言わない。まるでタブーのように。
そしてそのデータが警察上層部の裏金のリストだったことを風聞で耳にした。東川はどこかから警察内で作られた額面五億円の裏金の件を知り、それをデータとして詰め込んだフラッシュメモリを所持していたらしい。思う。警察の汚職を外部の人間が知っていたとなると、上層部は総退陣に追い込まれるに違いない。どうやら東川はスケープゴートにされたようだ。体よく。
確かに警察が裏金を作るとなると、組織的犯行だ。五億の金が不正に処理された。公僕がやってはいけないことを仕出かしたとなると、危険性は増す。思っていた。警察のアキレス腱がデータ本体だったんだなと。裏金を作るということは私腹を肥やすことに等しい。五億という額は決して多い方じゃないのだが、不正は不正で正すべきだ。
ということは、東川を殴り、階段から転落死させたのは警察関係者ということになる。恐ろしい。仲間内にホシがいるのか?不気味だった。現実としてそうとしか考えられない。
月岡も吉倉もこの件を知っているだろうか?おそらく所轄の刑事は、俺のように風聞で聞かない限り知らないままだろう。ただ、知ってしまうと、それから先の捜査に身が入らない。何せ、警察は身内の不正に甘いからだ。昔から慣行としてあった。キャリア組の刑事も、たった一つの失点だけで、出世コースから容赦なしにふるい落とされる。それが実態であり、現実だった。
新宿北署の捜査員は、おそらく正攻法で犯人を見つけ出そうとするだろうが、身内を疑うことはまずしないだろう。所轄は捜査員が少ない。警視庁から応援が来ることもある。本庁の刑事は上層部の不正を知っているだろう。警察の結束は崩れてしまう。まあ、仕方ない。本来なら悪いことをした側を取り締まるのが警察の仕事だが、それが今回は全く逆なのだから……。
裏金がどう処理されたかは、あのフラッシュメモリ内に克明に記録されていると考えられる。もちろん、所轄にも累が及ぶ。いずれ火消しを頼むことになるだろう。それにデータ自体、証拠隠滅されている可能性が高い。五億の裏金が誰にどう渡ったか?口座の記録なども詳細に記されているはずだ。ブラックマネーが警察幹部に渡ったことは否めない。
北新宿でのIT企業社長殺害事件のことを考えながら、捜査本部で一日を過ごす。まさに急転直下だと思いながら……。(以下次号)




