第42話
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新宿の街は二件の殺人事件で揺れていた。確かに一般人にはマスコミのニュースとか、新聞やネットでの情報ぐらいしか知らされてない。思う。いろいろと事情があるのだろうと。警察は公開捜査にしているから、当然警視庁の捜査一課長や、所轄の刑事課長などのマスコミ対応の会見等は済んでいた。
一日が経ち、十一月となる。街は冷え込んでいた。行き交う人も幾分厚手のシャツや上着などを着て、歩いている。あっという間にこんな季節になった。俺だって背広の上に一枚羽織り、寒さを凌いでいる。何かしら体の熱が発散され、手足の冷たさを感じていた。
署内は暖房が利いている。インフルエンザが蔓延する時季で、体調には十分気を付けていた。さすがに頭痛や発熱など、捜査に支障を来たす。予防接種などをしてない以上、罹患しても仕方ない面もあるのだが……。
捜査本部はざわついていた。逃げ回る犯人たちの動向を見ていると、まるで解せない。自首する気がないから、警察の目を晦ますのだろう。正直なところ、性質が悪かった。カップに淹れたコーヒーを飲みながら、じっとパソコンの画面を見る。疲れはあった。警察官は激務なのだし、相方である吉倉に気を遣うこともある。
永岡が連れてきた警視庁の刑事たちもずっと同じフロアにいた。違和感はない。何かしら馴染んでいて、気に掛からない。三人ともがたいがよく、身体に備わった基本的な捜査能力は高いのだろう。思っていた。こういった刑事も世の中にはいると。
昼になり、出前でうどんが取られていた。熱いうちに啜りながら、気を落ち着ける。確かに心身ともに苦痛はあった。捜査が進んでないと、デカも参るのだ。特に殺人の案件など、抱え込むだけで怖気を振るう。恐怖感は続く。どうなるか分からないと思って……。
午後からも変わらない感じで仕事が続く。捜査員である以上、身を切る思いで臨む。もちろん、吉倉だって身構えていてもおかしくない。互いに警察官同士でコンビを組んでいるので、関係が壊れないように注意していた。
歌舞伎町は十月末のハロウィン騒ぎで、街のあちこちが揺れている。篠田も何かと忙しいだろう。思っていた。交番勤務の警察官も大変だろうなと。ノンキャリアで巡査部長という階級だから、これから昇進試験を受けて、昇っていくだろう。二十代の前半という若さが、何でも出来るという気持ちを否応なしに引き起こすと思える。感じていた。あの若者を応援したいと。
街は冷え込む。晩秋か初冬ぐらいの時季特有の悪天候が続いて。(以下次号)




