第41話
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署内の捜査本部は隣の刑事課とは様相が違っていて、常駐する捜査員は俺や吉倉を含め、六、七人程度だった。月岡もずっと管理官席に座り、パソコンの画面を見ている。二件の事件はまだ本格的に動いてなかった。思う。片方の犯人はすでに特定されているのに、捕まえきれないことがジレンマになっているなと。
時折深呼吸し、気を静める。心労はあった。刑事にとって、目先の事件を解決できないことほど、疲れるものはない。実際、帳場の中の雰囲気はかなりよくないものとなっていた。ただ、暖房の熱と人いきれ、それにタバコのニコチン臭などが混じり合っていて……。
その日も一日詰めたのだが、目立った収穫はなかった。外にいる捜査員は一日が終わり次第、本部に戻ってくるのだが、捜査報告書を付け終わると、すぐに帰っていく。俺だって午後五時には帳場を出、帰宅する。
午後五時半過ぎぐらいに新宿駅の地下鉄乗り場から、電車に乗り込んだ。自宅マンションへと向かう。マンションに仕様が程近い公務員専用の寮が東京二十三区内にあるのだが、俺は民間住宅に住んでいる。家賃は高いにしても、仕事後はデカと顔を合わせたくない。寮は確かにプライバシーが侵害されないよう、ちゃんと設備が行き届いていたのだし、快適なようだが……。
帰り着いて、有り合わせの食材で食事を作り、独りで取った。入浴し、体を温めてから、ゆっくりする。不足はなかった。缶ビールを飲みながら、読書する。軽くアルコールが入ると、気が楽になるのだし……。
午前零時にはベッドに潜り込んで眠り、翌朝午前六時には自然と目が覚める。今日も一日仕事だ。部屋着からスーツに着替え、コーヒーを一杯淹れて飲む。意識を覚醒させたところで、カバンを持って部屋を出た。地下鉄の駅へと歩き出す。幾分体に重たさがあった。ストレスと過労だ。直に取れる。
月末で、今年ももう二ヶ月となった。あっという間に時が経つ。このヤマも長期化しそうだ。実際、東川幸生殺害の実行犯は特定されてないのだし、角井卓夫を殺害したと目される福野富雄は逃亡中だ。捜査本部に詰めていても、事件に関し、新規の情報は寄せられない。頭打ちだった。どうにもならない。
だが、犯人サイドもそう悪事を続けることは出来ないだろう。実際、過去に日本の警察が担当した捜査案件でも、未解決の分は極めて少ないのだし……。やはり事件を解決していくのに、日本の警察官は優れている。その一員だと思うと、何ら迷う必要はなかった。もちろん、警察の捜査自体、完璧なわけじゃないのだが……。
署に着き、デスクに座る。月岡も吉倉も先に来ていた。朝の挨拶をした後、軽く息をつく。パソコンを立ち上げて、ディスプレイを見ながら、一日の業務を始めた。コーヒーを淹れて飲みながら、詰め続ける。何かを言うこともなく、じっと。相変わらず新宿の街は朝から喧騒に満ちていたのだが……。(以下次号)




