第38話
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ずっと捜査本部にいながら、感じることはあった。捜査が進まないと。だが、捜査員は福野富雄や、東川幸生殺しのホシを追っている。確かに暇が続くと、何かしら抜け殻のようになってしまう。合間に席を立ち、トイレに行ったりして、その後、コーヒーを淹れる。努めて気を入れ直す。月岡が発破をかけることはないのだが、焦りのようなものはあった。焦燥?そういった類のものである。
連日帳場に詰め、パソコンに向かう。警視庁の警察情報サイトや、その中に掲載されている捜査情報などは更新が滞りがちだ。あまりよくない状況だと思えた。警察も些細なことまで含めて、いろんな情報がないと、捜査し辛い。やはり行き詰まりを見せている。進展がないという。
確かに角井卓夫が殺害されたホテルの部屋からは、福野富雄のDNAが検出されて、角井を殺したのは福野でほぼ間違いなかった。警察も勘を働かせる。特に捜査の段階が一定まで来ている以上、しっかりとホシに狙いを定めて探す。とにかく外回りの刑事たちは動く。絶えず。俺や吉倉、それに他の内勤の捜査員たちは外からの情報等が入ってきてから、必要になり次第、出動する手筈だ。
ちょうど火曜も朝から捜査本部にいた。帳場は即席だから、パソコンや電話機以外、特に何もない。もちろん、そこにいるのは人間だから、互いの思惑は交錯する。人間のエゴなどこういった際、むき出しとなるのだ。連日ずっと角突き合わせていると、感情が窺えるのだし……。
「井島」
「何?」
「外にいるデカは情報よこさないな」
「ああ、仕方ないよ。……限界があるだろ?刑事である前に人間なんだから」
吉倉相手にそう言うしかない。無責任だと言われるかもしれないが……。思う。警察官もいろいろあって大変だ。署は夜になると、入れ替わりに夜勤の刑事たちが入ってくるのだが、夜間も新宿の中枢部を管理するのは気の要る仕事である。二十四時間体制で動く。単に警視庁にある所轄の一つであっても……。
根気よくやるしかない。きっとホシだって尻尾を出すだろう。そう思いながら、昼間外からの情報提供等を待つ。同時に新宿北署とも水面下で連携していた。相互に関連のあるヤマだと判断して……。(以下次号)




