第34話
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一日が終わり、勤務時間を過ぎると、フロア内に夜勤の刑事たちが入ってくる。一言「お先します」と言って捜査本部を出、歩き始めた。疲れはある。これから自宅マンションに戻り、ゆっくりするつもりでいた。
それにしても、今日の毎報新聞記者の石田奈々の取材は何だったのか?訝しんでいた。おそらく近いうちに新聞の紙面に記事が掲載されるのだろう。どうしても新聞も飛ばし記事が多くなる。取材するにしても、手間暇を掛けないからだ。警察もブン屋のやり方には呆れていた。
地下鉄を乗り継ぎ、自宅に帰り着くと、部屋が掃除され、整理整頓されている。そしてメモ用紙に書置きされていた。字体からして一発で麗華の書いたものと分かる。<掃除しといたから。お仕事頑張ってね>と一筆記されていた。
メモ用紙を戸棚に入れてスーツを脱ぎ、部屋着に着替える。そして買っていた食材で自炊した。料理を一人前作り、食べながらゆっくりする。疲れは取れてきた。幾分。入浴して、髪や体を洗う。風呂上りに冷たいビールを一缶飲んだ。そして午前零時には眠る。
翌朝、午前六時には起き出し、スーツに着替えてから、キッチンでコーヒーを一杯淹れた。飲んでからカバンを持ち、歩き出す。駅まで歩きながら、スマホでネットを見ていると、毎報新聞の記事が載っていた。やはり奈々が書いたのだ。一時間にも満たない、どう考えても取材とは言えないようなもので書き立てる。マスコミの異常さが改めて分かった。
署に着くと、月岡も吉倉も他の捜査員たちも苦い顔をしていた。すでに記事を見たらしく、吉倉が、
「俺が取材に応じなきゃ、こんなことにならなかったろうにな」
と言う。
「いや。君に責任はない。……気にしなくていいよ」
「……」
無言でいた。だが、
「こうも言ってる間に福野も、東川幸生を殺害したホシも逃げてる。仕事仕事」
と、逸早く気持ちを切り替えたようだ。そしてデスクに着き、パソコンで各種のサイトを見始めた。俺の方もコーヒーを淹れて飲みながら、自分のデスクに座る。今日もこの帳場には俺たちデカが詰める。夜勤の刑事たちは午前八時十分過ぎにはもういない。代わりに日勤の人間たちがフロアにいて、仕事する。
刑事課には女性警官もいた。警察も組織の中に女性を入れる。最近やけに政府が女性の社会的活躍などを推し進めるから、尚更そうだった。まあ、女性警官と仕事をする機会は滅多にない。組んでいるのは吉倉なのだし、これと言って、署内で女性警察官と顔を合わせることもないのだ。
その日も一日が始まった。幾分単調なのだが……。歌舞伎町は篠田が守ってくれているようで、署の署長である綾瀬も、月岡も何も言わない。もちろん、何かあればすぐに行く用意はある。それが警察官同士の補完関係なのだから……。(以下次号)




