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事件  作者: 竹仲法順
26/230

第26話

     26

 午後五時を回り、日勤の刑事たちが夜勤のデカと入れ替わる。月岡や吉倉に先に帰る旨伝え、帳場の外へと歩き出す。疲れていた。心が休まるのは、夜しかない。新宿駅から地下鉄に乗って、自宅マンションへと戻る。おそらく今日も麗華は来ないだろう。彼女は彼女なりに忙しいのだ。夜遅くまでクラブに勤めていて、暇がないのだろう。

 車内で締めていたネクタイを緩めると、少し気が抜ける。座席に座り、スマホを見ながら、いろいろと情報を仕入れる。二件の殺人事件は公開捜査になっているので、すでに各メディアは取り上げていた。マスコミは喧しい。特にブン屋など、何かあるとすぐに警察の失態をタラタラと書き立てる。悪く言われることばかりで辟易していた。仕方がないのだが……。

 自宅に帰り着き、ビールを飲みながらキッチンで食事を作る。食べ終わった後、後片付けをして、入浴した。さすがに一日が終わると、気分が楽になる。午前零時前にはベッドに潜り込み、そのまま眠った。

 翌日午前六時には目が覚めて寝床から起き出し、洗面をしてから、上下ともスーツに着替える。そしてキッチンでお湯を沸かし、コーヒーを一杯淹れた。飲んだ後、カバンを持ち、部屋を出て、地下鉄の駅へと歩き出す。また新しい一日の始まりだ。

 午前八時には署に着き、刑事課に隣接する捜査本部へと入っていった。月岡と吉倉、それに他の捜査員たちに朝の挨拶をし、詰め始める。パソコンを起動させて待機した。昨日のように、突如犯人の目撃情報が寄せられて、出動を強いられることがある。だから、気を抜けない。

 週末や祝祭日でも、刑事は必ず署にいる。それに今現在殺人事件の捜査を担当しているから、尚更強制出勤だ。疲れていても、部署に詰める。暇はない。パソコンに向かい、捜査情報を探りながら、関係するところから寄せられる情報なども待つ。

 その日も昼になり、出前で取られた丼物を食べて栄養補給した。朝は食べないので、昼と夜にたくさん食べる。不健康だが、それが習慣化していた。今更変える気もない。

 昼食後、吉倉が、

「井島」

 と呼んだ。

「何?」

「角井卓夫さん殺害事件の現場洗ってからいろいろ考えてたんだが、仏さんが亡くなった時、室内はだいぶ争った形跡があった。もちろん、福野富雄のDNAも発見されたんだが、あの殺しは因縁めいてたな」

「因縁?」

「ああ。……何かあるよ。福野が角井さんを殺害するだけの強い動機が。……北新宿の雑居ビルで、害者の東川幸生が死んだ手で握り込んでたフラッシュメモリをホシから奪われた時みたいに」

「……」

「謎だらけだ。だが、単なる殺人事件にしても、ホシがあれだけのことをするには必ず動機がある。くどいようだけど……」

「動機……か?」

 正直なところ、よく分からない。だが、さすがの吉倉も参っているから、俺の方も参る。何かあった。東川が何者かによって階段から転落死させられたのも、福野が角井を殺害したことも。確かに世間には動機なき事件の類もあるのだが、それは今回の二件のヤマには当てはまらないことだと思えた。

 言い方を変えれば、何かしら警察を試すようなことを犯人側がやって楽しんでいるのだ。これほど不愉快な事件もない。警官たちがホシに踊らされるという。何にも増して不可解だ。これは捜査本部にいる捜査員は皆、感じていることだった。一応、外部との連携を密にして、ここは踏ん張るしかない。警察の威信が掛かったヤマだから、投げ出せないのだ。解決するまで。

 秋の日が過ぎていく。気候はいい。俺たち新宿中央署の捜査員の心の中とは裏腹で……。(以下次号)





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