最終話
FIN
その日も仕事が終わり、帰宅した。国頭が亡き吉倉に代わり、相方に付いてくれたのは心強い。彼は元々警視庁の一課のデカだ。何かと頼りになる。そう思い、月曜の夜も食事と入浴を済ませてから、眠った。
翌朝、午前六時に起き出してコーヒーを一杯淹れる。飲んだ後、支度をしてから、部屋を出た。まあ、焦ることはない。すでに本庁も所轄も合同して、石井謙一の捜索に動いている。身柄確保は時間の問題だ。
午前八時二十分に刑事課に着くと、課内が大騒ぎになっている。何かと思ったら、歌舞伎町の風俗店内で、石井らしい人間が目撃されたから、警察職員は全員拳銃携帯の上、急行せよとのことだった。おそらく九竜興業の構成員が厳重に守っているだろう。拳銃と警棒を持ち、駆け足で歌舞伎町方面へと向かう。
辺りには警官が二十名ほどいた。本庁と所轄の合同班の面々が、目の前にいる九竜興業の組員と掴み合いになる。すると、惨劇の途中で誰かが一発銃弾を発した。おそらく警察サイドの人間だ。そして皆、銃を手に撃ち合いになる。
その間、店の裏手に回っていた梨香子が、逃げようとする石井の身柄を確保した。いろいろと互いの思惑があったのだが、ものの三十分程度で関係者はほぼ全てお縄になる。銃撃で負傷した警官もいたので、周辺は大騒ぎになった。
辺りを見回っていると、背後に何かひと気を感じた。振り向くと、負傷した九竜興業のチンピラが俺の正面の右わき腹に鋭利なダガーナイフを思いっきり突き立てた。
「うっ……て、手前――」
ナイフが深々と刺さり、徐々に意識が薄れていく。このまま死ぬのか?梨香子が駆け寄り、
「井島さん、しっかり!」
と言うが、何もかもが遠のいていく。血がドクドクと溢れ出、止血などを試みても止まらない。
ふっと思う。俺の警官人生も吉倉と一緒で、殉職で終わるなと。だが、まさか自分が死ぬとは……。徐々に意識が薄らぐ。いつの間にか、月岡や国頭も俺の近くで呼んでいた。しっかりしろと言うように。来世があるのかどうかなど、考えたことは一度もなかったが、もう自分はいなくなる。唯一思い残したのは、麗華ともう一度会いたいということだった。今となっては、それも叶わないのだが……。
息絶える瞬間見えた、街の空に漂い浮かぶ淡い陽炎が、最後に目に焼き付いた代物だった。何はともあれ、石井が捕まったことで、この街でのアンダーグランドの事件全てが解決するのだ。もうその時、俺はこの世にいないのだが……。
(了)




