表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
事件  作者: 竹仲法順
230/230

最終話

     FIN

 その日も仕事が終わり、帰宅した。国頭が亡き吉倉に代わり、相方に付いてくれたのは心強い。彼は元々警視庁の一課のデカだ。何かと頼りになる。そう思い、月曜の夜も食事と入浴を済ませてから、眠った。

 翌朝、午前六時に起き出してコーヒーを一杯淹れる。飲んだ後、支度をしてから、部屋を出た。まあ、焦ることはない。すでに本庁も所轄も合同して、石井謙一の捜索に動いている。身柄確保は時間の問題だ。

 午前八時二十分に刑事課に着くと、課内が大騒ぎになっている。何かと思ったら、歌舞伎町の風俗店内で、石井らしい人間が目撃されたから、警察職員は全員拳銃携帯の上、急行せよとのことだった。おそらく九竜興業の構成員が厳重に守っているだろう。拳銃と警棒を持ち、駆け足で歌舞伎町方面へと向かう。

 辺りには警官が二十名ほどいた。本庁と所轄の合同班の面々が、目の前にいる九竜興業の組員と掴み合いになる。すると、惨劇の途中で誰かが一発銃弾を発した。おそらく警察サイドの人間だ。そして皆、銃を手に撃ち合いになる。

 その間、店の裏手に回っていた梨香子が、逃げようとする石井の身柄を確保した。いろいろと互いの思惑があったのだが、ものの三十分程度で関係者はほぼ全てお縄になる。銃撃で負傷した警官もいたので、周辺は大騒ぎになった。

 辺りを見回っていると、背後に何かひと気を感じた。振り向くと、負傷した九竜興業のチンピラが俺の正面の右わき腹に鋭利なダガーナイフを思いっきり突き立てた。

「うっ……て、手前――」

 ナイフが深々と刺さり、徐々に意識が薄れていく。このまま死ぬのか?梨香子が駆け寄り、

「井島さん、しっかり!」

 と言うが、何もかもが遠のいていく。血がドクドクと溢れ出、止血などを試みても止まらない。

 ふっと思う。俺の警官人生も吉倉と一緒で、殉職で終わるなと。だが、まさか自分が死ぬとは……。徐々に意識が薄らぐ。いつの間にか、月岡や国頭も俺の近くで呼んでいた。しっかりしろと言うように。来世があるのかどうかなど、考えたことは一度もなかったが、もう自分はいなくなる。唯一思い残したのは、麗華ともう一度会いたいということだった。今となっては、それも叶わないのだが……。

 息絶える瞬間見えた、街の空に漂い浮かぶ淡い陽炎が、最後に目に焼き付いた代物だった。何はともあれ、石井が捕まったことで、この街でのアンダーグランドの事件全てが解決するのだ。もうその時、俺はこの世にいないのだが……。

                                 (了)                       





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ