第229話
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日曜も午後から始めた仕事が終わり、五時過ぎには刑事課を出て、街を歩き出す。疲労やストレスは溜まっていた。新宿駅から地下鉄に乗り込み、自宅へと戻る。
毎晩蒸し暑く、あまり眠れてないのかもしれない。昼間がだるい。まだ自分では若いつもりなのだが、徐々に疲れが出てきつつある。夜間はなるだけ睡眠を取る気でいた。最近刑事小説もめっきり読まなくなったが、現実に目の前で事件が起きているので、毎日がスリリングだった。
翌日もまた通常通り出勤する。午前八時二十分に刑事課に入ると、月岡も梨香子もいて、業務を始めていた。デスクに着き、パソコンを立ち上げて、キーを叩き出す。福野も村上も取調官に対しウタったようで、自白もきちんと取れて、ひとまず殺人の案件では刑事告訴が可能だ。
その日の午後、二十代後半ぐらいの若手男性刑事が一人、刑事課でも俺のデスクに来て挨拶してきた。
「本庁捜査一課五係で巡査部長の国頭です。井島巡査部長に着くよう正式に打診され、今日からお世話になります。よろしくお願いします」
「ああ、よろしく。……国頭君でいいよね?」
「ええ」
「吉倉が殉職したのが、未だにウソみたいだよ」
「お察しします。……でも、井島さん、前に進まないと」
「うん、分かってる」
軽く頷いて、息をつく。国頭は長めの頭髪をスタイリング剤でセットしていて、腰に巻いたフォルスターには拳銃を一丁差していた。
「国頭君、当面の目標は歌舞伎町の親玉の石井謙一確保だよ」
「ええ。……すでに本庁も所轄も動いてます。俺たちも合流しないと」
「ああ」
端的に返したのだが、震え上がっているのは間違いない。暴力団捜査は危険だ。おそらく石井も九竜興業に手厚く保護されているだろう。それに組対はすでに稼働していると思う。またこの街でひと波乱ある。すでに石井に対する包囲網は固まっているのだし……。
国頭が一礼し、自分のデスクに着いて、拳銃と警棒の手入れをし始めた。また誰かの血が流れるのだろうか?もちろん、事が穏便に治まることはない。何せ、九竜興業に加担した人間が現役警官である吉倉を殉職へと追いやったのだから……。
最終決戦が近付こうとしていた。警察と暴力団サイドの全面対決の形で……。(以下次号)




