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事件  作者: 竹仲法順
227/230

第227話

     227

 午後六時過ぎに署に戻り、刑事課でしばらく吉倉や梨香子と顔を合わせる。丸一日、事件のホシを追い続けたが、結局見つからないままだ。

「今夜はゆっくり休め」

 月岡が俺たち捜査員にそう言って、自宅に帰す。一礼し、刑事課を出てから、歩いていった。外は何かと騒がしい。夏の繁華街は夜でも蒸すように暑く、参ってしまう。歩きながら、じっと前を見据えていた。拳銃と警棒は持っている。何かあれば、即対応できた。

 まあ、いろいろある。刑事も事情がたくさんあり、捜査にはどうしても制約が付く。それに所轄のデカは野犬と同じで、上の人間たちから飼われている存在だ。歩きながら、そんなことをずっと考えていた。

 自宅マンションに戻り、一晩休んでから、翌日も通常通り出勤する。午前八時二十分には刑事課に入り、すぐに街へと出た。新宿区は午前中晴れるのだが、昼からは曇ると天気の予測がスマホに出ている。

 吉倉と共に街を見回った。同じスーツ姿で。相方も拳銃は携帯している。非常時だから、武装が認められていて、俺も拳銃はもちろん、警棒も持っていた。

 不意に目抜き通りに、福野富雄らしい面相の人間が歩いているのが見える。吉倉が足早に近付き、

「福野!」

 と言って、まっすぐに確保へと向かう。次の瞬間、パーンという乾いた音がして、銃弾が一発相方の体に着弾した。吉倉が思いっきり倒れ込む。相方を撃ったのは、東川殺しの容疑者である村上義彦だった。すぐに銃を取り出し、正眼に構えて一発放つ。弾は村上の持つ銃に当たり、村上がのけ反って、その後、両手を挙げる。近辺にいた捜査員が集まり、村上を取り囲んで、若手の男性刑事がワッパを嵌め、

「確保!」

 と言った。それを見届けた後、すぐに吉倉へ駆け寄る。

「大丈夫か?しっかりしろ!」

 そう言い、何度も何度も揺さぶったが、相方の体からは血が溢れ、もう息をしてない。どうやら吉倉は最悪の形で殉職したようだった。泣くに泣けない。仕事のパートナーがもう死んだと思うと。

 辺りには捜査員だけでなく、パトカーが複数台集まり始めた。村上はもちろん、福野も連行され、改めて吉倉の死亡が確認される。遺体は警察病院へ搬送された。殉職により二階級特進で、警部となるのだが、果たしてそれに何の意味があるのか?

 相方はもういない。むせび泣くしかなかった。そして意外にあっけなく、二つの殺人事件のホシ二人は新宿において、警察が身柄を押さえる。思う。辛いが、これが現実なのだと。否定は出来ないのだし、もう吉倉の笑顔を見ることも叶わないのだ。

 翌日日曜の昼、警察挙げての葬儀が新宿区内の葬儀場で執り行われ、多くの人間たちが参列した。皆、死者のことを盛んに讃える。「事件解決のため、よくやった」と。もちろん、凶弾に倒れた人間は全く浮かばれないのだが……。(以下次号)


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