第210話
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その日も午後五時には仕事が終わり、刑事課を出てから、新宿の街を歩いた。繁華街は人で一杯である。歌舞伎町は賑わっていた。復興してから一際活気がある。思う。この街も人間の欲望や、あらぬ思惑が犇めいていると。夕方から絶えずネオンに灯されながら……。
放火犯の篠崎洋一と樋口喜佐夫の裁判は一審で原告側が死刑を求めていた。当然の要求だ。人ごと街を焼き払っておいて、単なる拘留で済むはずがない。まあ、司法がどう判断するかはあくまで任せるしかないと思っている。
新宿駅から地下鉄に乗り込み、自宅へと戻った。疲れていたので、まず食事を取り、シャワーを浴びてベッドに入る。一晩眠り、翌朝も午前六時には目が覚めて起き出した。コーヒーをカップ一杯淹れて飲んだ後、スーツに着替えてカバンを持ち、部屋を出る。
都心に出、空を見上げてから感じたのだが、朝の新宿は幾分曇っていた。署まで歩き、刑事課に入っていって、デスクのパソコンを立ち上げる。そしてキーを叩き始めた。通常通り仕事が始まる。窓口には制服姿の婦警が二人座っていた。
午前中ずっとパソコンに向かい、キーを叩く。連日疲れていたが、スーツ着用だと気が入った。仕事を続ける。いろいろ考えながらも、淡々と。
それにしても、東川幸生・角井卓夫殺害事件は一体どうなるのだろう?気になっていた。警視庁が奪い取ったヤマだが、捜査母体が立件中で解決に向け、難儀している。このまま座礁するのだろうか?不安だった。何せ五億の裏金問題で、本庁の威信は地に落ちてしまったのだし……。
この街の犯罪や事件はほとんどが九竜興業絡みだ。まあ、ヤツらも警察が相手だと委縮するのだろうが……。時が解決することもある。警察にも機というものがあった。どこかしらで暴力組織と対決するための時機なり、タイミングのようなものが……。それがいつ来るのかは不安でしょうがないのだが、耐えてやっていれば勝機は必ず見えてくる。そんなことを感じ取っていた。このところずっと。
昼にコンビニ弁当が渡され、それで昼食を済ませる。そしてまた午後からも屋内で仕事を続けた。いつの間にか疲労は抜けきっていて、しっかりと目の前のことに取り組む。相変わらず雑用の類が多いのだが……。(以下次号)




