第21話
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その日も一日が過ぎ、勤務時間が終わると、遅くまで署に居残ることなく帰宅した。新宿駅から地下鉄に乗り込み、自宅マンションへと戻る。午後七時前に帰り着くと、麗華がいた。彼女が、
「勇介、お帰り」
と言って、出迎えてくれる。合鍵を持っているから、いつでも自由に出入りできるのだ。
「ああ、ただ今」
そう返して上下ともスーツを脱ぎ、軽く息をつく。麗華が、
「お仕事お疲れ様。……料理作ってあるわよ」
と言ってきた。頷き「ああ、ありがとう」と言って、テーブルに着く。料理を盛った皿が並べてあった。彼女は結構バランスのいい食事をするようで、ご飯と野菜と肉類を各々適量使って作っている。実に健康的なのだった。
一緒に食事を取ってから初めて、今夜麗華の勤務先のクラブが休みだと知った。おそらく店自体、定期的に休みにするのだろう。都内でも一等地の繁華街にあるクラブは、欲望の巣だ。男性客が高い金を払い、ホステスたちを買い漁る。悪いことではないのだが、彼女も疲れているのだろう。接客だと、特にメンタル面で。
その夜、入浴して、同じベッドの中で寝乱れた。お互い三十代で決して若くはない。まあ、もちろん世間では三十代というと、まだまだ盛りのように受け取られるのだが……。性交後、話をし続けた。麗華もいろいろと話したいことがあるらしい。それは十分分かっていた。
「警察も大変ね。新宿で二件も殺人事件抱えて」
「ああ。……ホシを追ってるところだけどな」
「勇介も外回りしてるの?」
「いや。俺はずっと帳場にいるよ。上司が捜査本部の管理官だからな」
「そう……」
彼女が言葉尻を曖昧にしながらも、頷く。そして言った。
「事件早く解決するといいわね」
「ああ、参っててな。特にメンタル面でね」
本音が漏れ出る。まあ、刑事なら誰もがそうだ。事件捜査を担当すれば、多かれ少なかれ、疲労の色が浮かぶ。麗華もそんな俺を慰めた。
そして翌朝午前六時に起き出し、ベッドを出ると、彼女が先に起きてキッチンで朝食を作っていた。トントンという包丁の鳴る音を聞きながら思う。麗華はいい恋人だと。全面的に身を預けていた。まあ、すぐに結婚までしなくとも、同棲という関係でもいい。そう思いながらも、部屋着からスーツに着替え、出勤準備をする。殺人事件の捜査がある以上、仕事は休みにならない。愚直にやるつもりでいた。帳場に詰めるのも慣れたのだし……。
一緒に食事を取り、彼女から玄関口まで見送ってもらった。部屋を出て、駅へと歩き出す。今日も新たな一日が始まる。職場では何かとストレスが溜まるのだが……。別にそう気に掛けてない。割り切って考えていた。あくまで今やっているのは、警察官としての仕事だと。何かときついことではあるのだが……。(以下次号)




