第206話
206
その日も一日の仕事が終わり、刑事課を出て、新宿駅へと向かう。街のあちこちには早々とネオンが灯り始めていた。人間の欲は尽きない。歌舞伎町は今夜も賑わう。いろんな人間たちが集って。
駅構内は見慣れた光景だった。夕方から夜に掛け、地下鉄は多数の人間を都心から郊外へと運ぶ。揺られながら、いろんなことを考えていた。人間が多数いれば、当然ろくでもない輩もいる。俺たち刑事は事件捜査になると、そういった犯罪者相手だ。こっちも狂ったように犯罪に走る人間たちを追う。
まあ、この仕事が長いから、自ずと分かるのだ。ホシが何を考えているかぐらい。歌舞伎町交番勤務時代から、歓楽街に出入りする悪いヤツらをいくらでも見てきた。未だにその余波がある。どうしても人間の欠点ばかり目にしてしまう。今更治らない癖なのだ。多分、警官を辞めても残り続ける悪癖の類だろう。
夜は眠る。疲れていると、自然と眠りに落ちてしまう。規則的な生活が続いていた。午後十一時に眠り、朝方は午前六時に目が覚めるという。そして普通に午前八時二十分には署に着き、刑事課のデスクで仕事を始めていた。
警視庁の裏金問題に関する裁判はすでに始まっている。どんな判決が出るにしても、いずれ双方の和解で決着し、それから警察は九竜興業を叩き潰すための戦略に出るものと思われた。岩尾たち幹部は逮捕時に解任されているから、新体制を取ってやり直すだろう。大変なのだが、それしか選択肢がない。俺たち所轄の人間は脇から窺っているだけだ。それに仮に新宿区内で大戦争が始まれば、所轄の刑事課の強行犯係のデカも残らず動員される。俺だって当然与させられるだろう。街の後始末は一仕事である。まあ、クズどもは残らず処理してやる。二度と街で犯罪の根を生やさないように……。
吉倉も梨香子も、他のデカたちも皆、身構えていた。もちろん、いったん火が点けば、物事が無事に収まることはないだろう。誰かの血が流れるのは間違いない。それがこの街の縮図であり、掟であり、不文律だった。いろいろな感情なり、感覚が胸中に去来するのだが……。(以下次号)




