第204話
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その日も一日の仕事が終わって、刑事課を出、街を歩き出す。疲れはあった。事件捜査はなくても、常に新宿の様子を具に見極める。吉倉も梨香子も、他の課員たちもずっと気を張っていた。思う。神経を遣ってるだろうなと。
九竜興業関係者は大勢潜伏している。しばらくは様子見だ。警察側としても、ここで一気に動くことは出来ない。何せ相手が相手なのだから。いざとなれば、警視庁の組対の人間たちや所轄のマル暴が率先して動く。新宿区内にも複数の所轄が併存している。捜査員は多数いた。
暴力団捜査は難しい。関係者を逮捕するための口実が作りにくいからだ。それはいつも感じていた。俺自身、強行犯係の刑事だが、梨香子のように元マル暴の人間も同じ署内にいる。いつもは普通に接していても、内部事情は生半じゃない。
一夜明け、翌日も通常通り出勤した。東京は曇りで、午後辺りから雨が降る。何かと嫌な天気だ。すっきりしなくて。
午前八時二十分には刑事課に着き、パソコンを立ち上げて、キーを叩き始めた。一日屋内で過ごすことになるだろう。短気なデカは損をする。警察官は何かを追っていても、気が長い方がいい。いつもそう思っていた。
午前中ずっとパソコンに向かい、昼になると、食事を取る。コンビニ弁当が取られていた。食べながら、幾分ゆっくりする。緊張感が続くと、疲れ切ってしまう。人間は疲労があると、休むように出来ている。食事後、デスクに座ったまま、休憩していた。吉倉はフロア隅でタバコを吸っている。相方も口寂しいのだろう。ニコチンなど、害にしかならないのに……。
また午後からも仕事を続けた。淡々としている。目立って変化もないまま。まあ、気長にやるつもりでいた。焦燥感は危ない。人間を駆り立てる。なるだけ気持ちを落ち着けながら、キーを叩く。常に街では水面下でいろんなことが巻き起こっているのだが……。(以下次号)




