第14話
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その日、午後五時まで署内にいた。帳場は月岡が取り仕切っていて、吉倉は現場にいる。事件現場であるホテルの近くには、大勢のマスコミ関係者がいた。事件となると、この手の人間たちは決まって嗅ぎ付ける。連中のやり方は、今も昔も全く変わらない。
午後五時半を回る頃、いったん署を出て帰宅した。本来なら殺人事件の捜査で遅くまで居残るのが普通だろうが、いかんせん体力が持たない。常にそうだった。事件が大がかりになればなるほど、捜査員の疲弊は大きい。
自宅に戻ると、部屋に麗華がいた。意外に思い、
「今日仕事ないの?」
と訊くと、
「ええ、臨時休業よ。ママが用事があって」
と返す。軽く頷き、
「そう。……まあ、それなら仕方ないね」
と言って、上下ともスーツを脱ぎ、部屋着に着替えた。彼女が、
「勇介も疲れてるんでしょう?」
と言ってきたので、
「ああ、まあな。刑事は激務だし」
と返して、キッチンのテーブルに食事が並べられているのを見た。
「これ、作ったの?」
「ええ。時間があったから」
「じゃあ、先に食事しようか?」
「そうね。食べよう」
麗華がそう言い、揃って食事を取り始める。彼女はクラブのホステスの割に庶民派だ。料理が得意で、何でも作るようである。俺もそれに満足していた。昼間忙しい分、夜はゆっくりする。睡眠不足気味なのだが、夜間はなるだけ眠っていた。もちろん、緊張感は絶えず続いている。それに心身ともに疲れきっていた。事件捜査などが重なって、だ。
その夜、麗華と抱き合って一夜を過ごした。腕同士を絡ませ、愛情を伝え合う。何ら遠慮は要らないのだ。行為後、ベッドの中で語り合う。午後十一時を過ぎる頃、バスルームへ向かった。髪や体を洗い合い、入浴後、一緒のベッドで眠る。
朝が来て、いつも通りに寝床を出ると、彼女が先に起き出していた。キッチンで朝食を作っている。
「おはよう」と声を掛けると「ああ、おはよう」と返事があった。上下ともスーツに着替え、洗面してから、キッチンへ戻る。一緒に食事を取った後、麗華も部屋を出た。夕方、店に出勤するまでに用事があるようだ。俺の方は地下鉄に乗り込み、新宿へと向かった。署に着き、刑事課に入ると、吉倉がいて、
「井島、しばらく俺も現場に張り付くから、君は事件の日のホテルの様子を探れ」
と言い、すぐに課を出た。
「分かった」
同僚の後姿に返事をして、そのまま詰める。月岡はすでに署内の帳場にいるようだ。また一日が始まる。警察官としての長い一日が。フロア隅に行き、プラスチック製のカップにコーヒーを注いで飲みながら、ホテルの防犯カメラの映像をパソコンで見る。じっくりと。(以下次号)




