第111話
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その日も午後五時には一日の仕事が終わり、刑事課を出て、署外へと向かう。背筋を伸ばし、疲れた体をシャキッとさせてから、歩いていった。街を見ると、人が多い。真冬の寒い中でも、一際活況があった。この危険な街も眠らずに続く。新宿駅へと歩いていった。辺りの人をかき分けながら、だ。
地下鉄に乗って自宅に帰り着くと、すぐに自炊し、食事を取る。そして熱めのシャワーを浴び、入浴してから、以前買っていたミステリー小説を軽く二時間ほど読んだ。眠気が差したところでベッドに潜り込み、眠る。
翌朝も午前六時には目が覚めて起き出し、キッチンでコーヒーを一杯淹れた。飲んでからスーツに着替え、カバンを持ち、部屋を出る。体調は今一つだったが、黒服に身を包めば、適度な緊張感が出た。
通常通り、午前八時二十分には出勤し、デスクに着いてパソコンを立ち上げる。キーを叩きながら、庶務などをこなした。捜査はなくても、警察官には他にやることがたくさんある。時間に追われる日が続く。暇なしで。
吉倉が隣のデスクで、俺と同じくパソコンの画面を覗き込んでいる。相方も忙しいようだ。事件捜査には能がなくとも、日々の仕事は着実にこなしている。ある意味、堅実だった。
昼になり、昼食を取る。出前の丼物を食べて、スタミナを付けた。いつも同じような食事が用意されるのだが、これと言って不満はない。出されたものを食べる。元々学生時代など腹が減ってしょうがなかった。食えない時代があったからこそ、尚更強い。苦労を経てきた俺にも底力がある。もちろん、人生経験という観点から見ると、未だ経験値が不足しているのだが……。
食事後、少し気が抜ける。フロアにいて、休憩していた。婦警が電話応対などをしていて、休みなく業務が続く。この署も中ではいろいろあるのだ。事情みたいなものが。互いに遠慮していることもある。口に出すとまずいことも、いくらかあるので……。
街は動く。そして俺たち警察官も絶えず活動する。新宿は危ない場所だ。絶えず喧騒があり、住人は常に欲望の類を求める。言い出せばキリがないぐらい、いろんなものを含んでいるのだった。人口密度が格段に高く、何かと窮屈な思いもするのだし……。(以下次号)




