第100話
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歌舞伎町放火で焼死したホステスや風俗嬢などが数名いた。いくら水商売の女性や夜の仕事に従事する人間でも、同じ人だ。何ら一つとして罪はないのに、なぜ篠崎や樋口などはそういった無辜の人たちを死に追いやったのか?怒りが湧いてきた。警視庁のデカも必ずヤツらを厳しく取り調べて起訴し、裁判所で司法の下、厳罰を下してほしい。そう思っていた。
ちょうど二日間はこれと言って何もないまま、過ぎた。思う。警察も普段は余剰人員が多いと。普通に頭数だけ揃えている。公務員でも司法警察員は特殊だ。だいぶ慣れたのだし、警察官としてやることもたくさんある。
街を見回ることもあった。歌舞伎町は丸焼けなのだが、新宿区内は普段から大勢人がいて、警察も巡回などで手一杯だ。焼けた後に新たな繁華街が出来ると、また犯罪の種がまかれる。物騒だった。何かに付け。
いつもは署内でパソコンに向かい、回されてきた庶務などを行うのだが、とにかくここにいる以上、刑事として働くしかない。もちろん、苦境がずっと続くわけじゃないのだが……。
昼間は主に署内にいる。剣道の稽古や射撃訓練など、鍛錬の類もあった。吉倉がタバコを吸いながら、
「井島、東川幸生と角井卓夫が殺害されたヤマは、まだ終わってないよな?」
と訊いてきた。
「ああ。本庁の人間たちも大変だろう。……でも、俺たちが手出しすることはない。丸投げしてるからね」
軽く息をつく。コーヒーを淹れたプラスチック製のカップに口を付け、飲んだ。少しは落ち着く。何かしら、考えることはあったにしても。時折フロアを出て、トイレに行くことがあった。常に精神を高揚させると疲れてしまう。それが人間だ。おまけに現時点で抱え込んでいるヤマはない。幾分楽だった。気を張り続ける必要はない。そう認識していた。
時は過ぎる。思っていた。時間を無駄にしないようにと。近頃、そういったことが頻りに脳裏をよぎっている。いろいろあるのだ。広いようで実際は狭い街にいると、他人の思惑が透けて見える。デカの仕事は常にこんなものの積み重ねだ。つまらないことであったにしても……。(以下次号)