第10話
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世間は連休でも、警察官は仕事がある。ほぼ毎日署に出勤していた。勤務時はパソコンに向かい庶務を行ったり、道場での鍛錬、射撃場での射撃訓練など、びっしりと予定がある。刑事は激務だ。そう思っていた。
ちょうど連休中の某日の夜、仕事が立て込んで午後十一時過ぎに疲れて帰ってくると、部屋に麗華がいた。そして、
「勇介、お帰り」
と言い、出迎える。
「ああ。……どうしたの?いきなり来て」
「いえ。単に会いに来ただけよ」
彼女がそう言い、俺の体に腕を回して、抱き付いてきた。応じて抱き返すと、ベッドの中で一際熱い夜が始まる。抱き合いながら、絶えず求め合う。精が尽きることはない。ゆっくりと夜が過ぎる。
達した後、しばらくベッドの中で寝物語をした。互いに半裸のままで、だ。麗華は三十代の熟れた体を曝しながら、冷蔵庫から取り出した缶ビールを開けて飲み、酔う。さすがにホステスは客と酒を飲むのが仕事なので、アルコールには滅法強い。それにウイスキーの水割りなどは作るのもお手の物だ。俺にも一杯作ってくれた。飲みながら一日が終わるのを感じる。
「北新宿のIT企業社長殺害事件、ニュースで見てるわよ」
「ああ、あのヤマの捜査は別の所轄が担当してる。俺たちには関係ない」
「でも近距離だから、気には留めてるでしょ?……警察も協力し合うんじゃないの?」
「まあな。……でも、管轄が違うと、手を出せない。それが本音だよ」
そう言い、また酒を含む。ものの数分で眠気が差してきたので、彼女の半裸体を見ながら、眠りに落ちようとしていた。秋の夜は長い。ゆっくり休む。麗華は店に行く日は帰宅が午前零時を回る時もあれば、午後十時半過ぎぐらいに店を出て、そのまま俺の部屋に来ることもあるのだ。ホステスも人間である。客の欲望を満たすのも限界があるのだ。
「確かニュースでは、警察も他殺の線で動いてるみたいね」
「うん。……だけど、物証が出ない。今は闇の中だよ」
「そう……」
彼女の声を聞きながら、だんだんと意識が遠くなる。眠気が差し、そのまま寝入った。麗華も俺の飲み残した水割りのグラスなどを片付け、添い寝する。日付が一つ変わり、午前零時を過ぎる頃、眠った。
朝、午前六時には目が覚め、起き出す。体の芯に疲れがあったが、通常通り出勤なのでスーツに着替える。そしてキッチンに行くと、彼女が朝食を作っていた。バランスのいい食事が食べられるのは珍しい。普段、何かと栄養が偏っているからだ。
着替え終わり、ネクタイを結ぶと、麗華が、
「朝ご飯食べるでしょ?」
と訊いてきた。
「ああ。いただくよ」
そう返し、テーブルに着いて食事を取り始める。食材は有り合わせのものを使ったらしい。
食事が終わると、
「行ってくるよ」
と言って家を出た。そして地下鉄の駅へと向かう。疲労はあった。だが、刑事は簡単に休めない。俺も仕事に精を出す年齢に来ているのだし、ちょっときつくても、強制出勤する。電車に乗り込み、新宿方面へと向かった。
秋晴れで心地いい日だ。車内はいつもより混んでいなかった。スマホでニュースをチェックする。署に行けば、また月岡や吉倉と顔を合わせる。別にそれが苦痛ではなかったのだが……。(以下次号)