整理整頓は苦手です
あんた、感情移入し過ぎは良くないわよ。
まあしばらく続けてみなさいよ、面白いんだから。
乙女ゲーとしては兎も角、なかなか・・・
鬼畜よ。
「求めてないわ!!」
私はそう叫びながらしっかり腹筋を使って飛び起きた。
ぜえはあと呼吸が乱れているのは寝起きの腹筋のせいか、それとも夢による興奮のせいか・・・
恐らくどちらもでしょう。
私はしばらくはあはあと息を吐いてやっと落ち着いた。
冷静に自分の状況を考える。
どうやらベッドに寝かされていたらしい。
どこかの部屋だ。
汚くも綺麗でもない、シンプルな机だけが置かれた窓の無い部屋。
ふと上を見上げると小さな天窓があった。
屋根裏部屋らしい。
え、てか、ここどこ?
普通に考えてセトが連れてきてくれたのだと思うけど、じゃあセトは?
私はベッドから降りて扉に向かった。
取っ手に手をかけると何かに引っかかるように回らない。
「・・・鍵? 」
開かない。
どうやら閉じ込められているらしい。
「・・・・・・」
しばらく扉の前で突っ立っていたけどどうしようも無いのでベッドに戻ることにした。
まあ、そのうちセトが来てくれる・・・はず。
ということで私は自分の状況を改めて整理してみることにした。
まず、私は新たに生まれ変わっているということ。
え、そこからかって?
色々あって頭がゴチャゴチャしてるからね。
・・・そして、新たに追加された情報はこの世界が前世でやったゲームの設定に酷似していること。
私の境遇がその主人公と同じなこと。
セトと出会ったきっかけがゲームと同じ状況なこと。
そして、ソルドが忘れもしない衝撃のセリフと全く同じことを言いやがったこと。
・・・あの野郎許さねえぞ、前世の私だけでなく今世の私の心に傷をつけるとは・・・おのれ・・・
完全な逆恨みだと解っているがしばらくソルドには怒りの受け皿になってもらおう。
大丈夫、頭で思うだけだから。
今のところ物語はあのゲームと同じ道筋を辿っている。
多少の誤差はあれど(特に私)セトとしっかり出会い、そしてソルドにも出会ってしまった。
このまま進んでいくと・・・
「ーーーっ」
私はそこまで考えてとんでもないことを思い出した。
ああ、なぜ今まで気が付かなかったのか。
このまま進んでいくと、・・・セトが死ぬ。
嘘でしょ、セトが、セトが死ぬ?
そう、私がゲームを挫折した最大の理由がこれだ。
私は友人が漏らしたこの盛大なネタバレにゲームを続けることを断念したのだ。
すっかり感情移入をしてしまったセトが死ぬところを見るなんて、私には耐えられなかった。
ここが、ゲームの世界と同じだとしよう。
だったらセトが死ぬことは絶対に回避しなければならない。
残念ながら私はこのゲームを途中で挫折したのでセトがいつどのような場面で死んでしまうのか全くわからない。
ああもう!なんでもっと友人にネタバレを許さなかったのだ!
ゲームを挫折したのは主人公が17歳の誕生日を迎えた頃。
その時はまだセトは生きていた。
では、17歳の誕生日までに私はセトをつれて村から脱出すればセトは死ぬことは無いんじゃないか?
そうだ、そうしよう。
私の脱出計画にいよいよ本格的な目標が立てられた。
それに、もう一つ思い出したことがある。
私は18歳の誕生日に神との婚姻を結ばなければならないのだ。
この歳で婚約者は神とかあり得ない。
え?私が神の生まれ変わりじゃないの?どういうこと?
そうしたら本当に私は今世でも生身の男と結婚することが出来ない。
何としてもそれも回避したい。
「よし!」
私は拳を握り意気込みを新たにした。
そうと決まったら、やはりセトには魔法を教えてもらおう。
今日の目的はそれをセトに頼むことだったのだから。
私は運命を変えてみせる。
コンコン
私がこれからの計画を綿密にたてていると、部屋の扉が遠慮気味にノックされた。
「ヴェルリネ、入るよ?」
セトの声だ。
「どうぞ」
そう答えるとセトは困ったように眉をハの字にして入ってくる。
ベッドに座る私に近づくと、覗きこむように私の前に膝をついた。
「大丈夫?どこも痛くない?」
「うん、急にごめんね・・・ここはどこ?」
そう聞くとセトは答えずに首をゆるく左右に振った。
さらさらと赤い髪が揺れる。
答えられない、と言うことだろうか。
セトが言いたくないなら無理には答えなくても良いけど。
だいたい予想はつくし。
セトは何も言わない私に申し訳ない、という顔をして私の顔を両手で優しく挟んだ。
頬が冷えていたのかセトの手が暖かく感じる。
顔が近い、チュウでも出来そうだ。
「セト・・・?」
私は戸惑ってセトの名前を呼んだ。
「ヴェルリネが、起きなかったらどうしようかと思ったよ?」
「うん、・・・なんか、ショックで」
「・・・ごめん、ソルドが」
「ううん、セトは悪く無いよ」
「ソルドのことは僕が怒っておいたからね?」
どうやら私が気絶したのはソルドの放った言葉にショックを受けたせいだと思っているらしい。
いや、間違っては無いのだけども。
セトはそう言ってからゆっくりと立ち上がり、私に手を差し出した。
「さて、送ってあげる。帰ろうかヴェルリネ」
私はセトの手をとり立ち上がる。
どれほどの時間が経過したのかよくわからないけど、外も明るそうなのできっと大丈夫だろう。
まだお祈りの時間は終わってないことを願おう。
二人で手を繋いで扉から出ると、出てすぐの所にソルドが壁にもたれかかるようにして立っていた。
黒いマントで覆われていて表情はわからないけど、こちらを睨んでいるのは何かわかる。
思わずセトの手をギュッと握ってしまった。
「ソルド」
それに気がついたセトが咎めるようにソルドの名前を呼んだ。
ソルドはやれやれとでも言うように肩を大げさに上げると私たちに背を向けて歩き出した。
「行こう、ヴェルリネ」
これはソルドに付いて行けば良いということか?
私達は白い壁に挟まれたやたら長い廊下をひたすら歩いて行く。
一体どうなっているのかわからないがトンネルのようだ。
そして暫くすると突き当りに扉が現れた。
私達はその扉を開けずに一旦立ち止まる。
「お前、変なこと考えたら許さねえぞ」
ずっと前を歩いていたソルドが私を振り返りいきなり言った。
「ソルド!お前・・・っ」
セトが咎める声を上げて、私の頭はまた真っ白になったが今度はすぐに怒りが湧き上がる。
「あんたに許されなくても結構!!バーカ!バーカ!!アホ!ボケ!」
とっさに私はそう叫んでいた。
あまりの幼稚な返しに呆れないで頂きたい。
ぎょっとした顔をセトがしているが私はもう止まらない。
ソルドもぽかんと口を開けているのがわかる。
「だいたいね、初対面でいきなり言う言葉があり得ないんだけど。はああああ?うっさいわね!!あんたの許可なんかいらない!私はセトに会うったら会うのよ!!!このホ◯野郎!!!」
思いっきり前世からの恨みも込みで叫んだがもうそんなの関係ない。
ふんっと最後に鼻息を荒く吐いて私はソルドを押しのけ扉に手をかけた。
そしてそのまま勢い良く扉を開け放つ。
瞬間、すごい突風が外から吹き込んできた。
「ーーーっな、おま・・・!」
この突風には覚えがあるのでとっさに振り返ると相変わらず驚いた顔をしたセトと、私に何かを言おうとしているソルドが目に入る。
風でフードが舞い上がりソルドの顔が露わになる。
私がソルドの姿に思わず目を見開いた瞬間、背中から引っ張られるように扉の外へ出てしまう。
バタン!!
と目の前で扉が閉まり、次の瞬間には扉は跡形もなく消えていた。
呆然と私は立ちすくみ、そしてキョロキョロと周りを見回す。
後ろを見ると、いつもの神殿が・・・
「瞬間移動以外にもあるのね・・・」
そして私はこの世界の最大のテーマを思い出した。
ソルドの髪と瞳は、セトと同じように燃えるような赤だったーーーー
赤、それは呪いの色、罪の色、災の色。
赤い目と髪を持つ者、この世に災厄をもたらすであろう。
それが、世界に刷り込まれた悲しい定めであることを。