思い出した、忘れもしない衝撃。
あれからセトとは数えきれないほど二人で会い、私とセトの距離はどんどん縮まっていった。
約束をするわけでも無くどちらともなく私たちはあの木の下で会った。
何度も何度も会って話をして、時にはセトが知る村の外の知識を聞いて私も順調に「勉強」を進めた。
まるで今まで一緒に居なかったのが不思議なくらい、私とセトは互いを大事に想うようになっていた。
セトは私の住んでいる村から結構離れた場所にある集落に住んでいるらしい。
らしいと言うのは、セトは自分の居住地に関してだけは頑なに口を閉ざしているから。
なんか、ダメらしい。
まあ良いんだけどね。
あとセトがどうやってこんな場所まで来ているのかと言うと、聞いて驚け。
この世界には魔法があったらしい。
え?マジで?
最初は私の頭のなかはそればかりだったがもう認めざる負えない。
科学では解明出来ないことが世の中にはあった・・・
私を一瞬で瞬間移動させたのもセトが遠くまで行き来することができるのも全て魔法の成せる技だったのだ。
まあ、魔法を使える人間というのもそう居ないらしいのだけど・・・
そう考えるとセトってすごい人間なんだな。
美少年で珍しい赤髪でしかも魔法が使えるなんてさ。
私なんてただの美少女だし、神の生まれ変わりって言ってもただ周りがそう言ってるだけでそれっぽい力も何も無いし。
ちなみにセトはやはり私と同じ歳だった。
セトは歳にしては大人びている。
言っては何だけど、村のジルフェンよりもしっかりしている。
そして更に言うなら、ううう私負けてるかも・・・しっかりしよう。
そして私は残念ながらこれと言った精神の成長も感じず、12歳になった。
「セト!」
今日もセトと会うためにお祈りを抜けだした私は、いつもの木の下にセトを発見して駆け寄った。
何やら上を見上げていたセトは、慌てたように振り返り言った。
「ヴェルリネ!今日は来ないかと思ってた!」
いつも私が先に来てセトを今か今かと待っていることが多いのでそう言ったのだろう。
実は今日はセトの予想通り来ないつもりだったのだけど。
「うん、やっぱり来ちゃった。お願いもあるんだけど、それよりもセトに会いたくて」
正直にそう言うと、セトは少し頬を染める。
そして嬉しそうに目を細めた。
「・・・僕も、ヴェルリネに会えて嬉しいな」
そうハニカミながら言うセトに私はノックアウト。
どこのバカップルだと思うだろうが私とセトはこういう感じが普通になってしまっているので慣れていただきたい。
えへへ、とどちらともなく笑い合う。
私は村の中に居るとどうしても特別扱いを受けてしまうので、普通に扱ってくれるセトとの時間は貴重で癒やしだった。
美少年だし。
「セト、今日はお願いがあるの・・・」
私は今日ここに来たもう一つの理由を話そうとセトに近づく。
その時だ。
大きな何かが私とセトの間に落ちてきたのだ。
「!?」
私は驚いて一歩後ずさりながらその何かが人であることに気がついた。
セトが出会った時に身に着けていた真っ黒なマント。
その人間はゆっくりと立ち上がりながら言う。
「それ以上、近づいたら殺すぞ」
そんな言葉を吐いて、私を威嚇するようにまっすぐ立つその人は私よりも頭一つ分大きな男。
一瞬、いきなりすぎて何を言われたのか理解できなかった。
そしてその男は更に言葉を積み上げていく。
「お前、何企んでいる。セトに近づいてどうするつもりだ。ぶっ殺すぞ、このクソアマ」
理解できない、を通り越して頭が真っ白になった。
「ソルド!!?」
セトが男の背中で驚きの声を上げている。
だけど私は未だに思考停止状態だ。
自慢じゃないが私はちやほやされて育ってきた為暴言を一度も吐かれたことがない。
いや、前世ではそれなりに苦労したとは思うがそんなの遠い過去の話であって、心って言うのは筋肉と一緒で鍛えないとどんどん軟弱に衰えて、いや、ちょっと、殺すって普通に生きてきたらそんな言われない言葉じゃね?
鍛えるとかそう言う問題じゃなくない?
「セト!こんな怪しすぎる女に懐いてんじゃねえぞ!!死にたいのか!?」
「違う!ヴェルリネはそんな子じゃない!!」
「んなわけあるか!!こんな女信用できるか!!・・・殺す」
「だめだ!!ソルド!!」
なにやら二人は言い争っているが私の心は、それどころじゃ無かった。
心を、砕かれながらも何か既視感のようなものを感じていた。
何だこの覚えのある気持ち。
ガツンと何かに殴られたような衝撃が頭を襲っている。
そして前世を思い出した時に打った頭のあの場所にすさまじい痛みが走った。
「ーーーー!!」
私は頭を抑えてうずくまる。
やがて人混みの中にいるようなざわめきが私の頭をいっぱいに支配する。
ああ、こんなのって無いわ、こんなの耐えられない耐えられない
だって難しいにも程があるじゃない
いつになったらデレてくれるの
いきなり心砕くとかそんなもんなの
あんたすごい
え?無理よ、私セト一筋で行く
え?うそ、ほんと?
クリアさせる気あるの、こんなのーーーーー
ーーーーこんなの乙女ゲーじゃない!!!
ピシャーンと雷が落ちたような気がした。
ああ、ああ、ああ!!
思い出してしまった。
忘れもしない、ソルドとの出会い。
まるで崖から突き落とすかのようなソルドの台詞。
そして今までの自分の境遇の全てが酷似する。
この世界は、私が見たあの物語にそっくりだった。
「ヴェ、ヴェルリネ・・・?」
「死んだか?」
急にうずくまった私に戸惑うような声が聞こえる。
聞こえるけど。
私の意識はまたブラックアウトしたのだった。
遠くで、声がする。
ーーいきなり?いきなり?あり得なくない?ーー
ーーあんたね、感情移入しすぎーー
ーーだって!あり得ないでしょ!?ーー
ああ、これは「前」の私の声だ。
あの日の友人との会話だ。
ーーもし、自分だったらどうする?ーー
ーーえ、逃げるでしょーー
ーーでもさ、逃げたら皆に迷惑かかるじゃんーー
ーーだからと言って、こっちも嫌だろーー
ーーそらそうだーー
ーーそもそもあの決まり間違ってるーー
ーーほんと、突き落とすのうまいよねーー
私は友人に薦められた「乙女ゲーム」というものを前世でやっていた。
三十路手前で付き合っていた彼氏に振られた私に癒やしをと薦められた一品だった。
癒やしを求めてこの乙女ゲームをプレイしていたが、これがまた一向に攻略対象がデレない。
デレないどころか罵ってくる。
そう、それがソルドだった。
出会い頭から罵られ癒される気満々だった私には衝撃が大きすぎた。
ぁあ!?状態だった。
頭に突き刺さって離れないくらいには衝撃だった。
デレる日が来るだろうと続けても続けても一向にそんな時は来ない。
しかも、セトは攻略対象じゃなかった。
忘れもしない、あの衝撃。
あんなに優しくて美少年キャラのセトが、攻略対象じゃないだと?
友人にそれを知らされた私はマジ泣きした。
セトだけが癒やしだった。
そして八つ当たりのようにソルドへの怒りが募った。
彼氏に振られ、セトとは愛を育めない、そして攻略対象には罵られる。
傷心の私はほどなく挫折した。
そしてある日、睡眠不足と過労で永眠。
ようするに、言いたいことはこうだ。
ここってゲームの世界と似てない?
やっとテーマに添うような内容にできそうなところまで来ました。