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はじめまして、ところで君可愛いね1

私は考えた。


周りが安心して私を放って置けるような人間にならなければいけないと。

お陰様で今の私の印象は「ハラハラするようなことをする子供」と非常に子供らしい評価のようだ。

しまったことをした。

こんな目標を立てることになると解っていたら、せめてそこら辺に生えている草とか食べようとしたり、森へ出て木に登ったりしなかったのに。


いや、だってね、美味しそうな植物や体に良さそうな薬草っぽいものがいっぱい生えているのよ。

どう考えても枝豆にしか見えない草とかいんげん豆にしか見えない草とかね。

前世で見覚えがあるような気がするーって言うおぼろげな理由でちょっと味見をしようとする私を、皆は「やべえ、こいつ」と思っているみたい。

今や食べられそうな植物を探すのが趣味となりつつある私は、もうそれを辞めることは拷問に近い。


「ヴェルリネ、・・・様・・・どうしたんだ?」

そんなことを考えながらお祈りの準備のために家に向かっていると、後ろから声をかけられた。

「ジルフェン、無理やり,様,をつけなくても良いわよ」

振り返れば不機嫌そうな顔をした少年。

少し癖のある栗色の髪をした頭をガシガシとかきながら近づいてきた。

「だって、付けねーと母ちゃんがうるせえんだもん」

そういって口を突き出す。

チュウでもして欲しいのだろうか、かわいいな。


ジルフェンは私より一つ年上の男の子。

ぱっちりとした目に深い青の瞳をしたなかなかの美少年である。

ジルフェンとは私が記憶を取り戻してから仲良くなったのだが、どうやら周りに私のことをちゃんと見ておくように言われているっぽい。

ジルフェンは最初のうちは私を丁寧に扱わなければいけない存在だと子供ながらに理解していたらしいが、私がするあまりの奇行に次第に扱いは雑になっていった。

十分である。

ぶっちゃけ他の皆さんにもその傾向は見られるがそれはまた機会があったらお話しよう。


「どうせまた食べられそうな草でも探して歩いてたんだろ」

「失礼な、私は今から大事なお祈りの時間なの。そんなことしてる場合じゃないわ」

あはは、とおかしそうにジルフェンが顔をほころばせた。

かわいいな、少年よ。

きっと私がお祈りなんてどうでも良いと思っていること知っているので、おかしくて仕方が無いのだろう。

「じゃあ、俺がここでヴェルリネ様を引き止めてたら母ちゃんの顔が魔王みたいに赤くなっちまう。大事なお祈りの邪魔しちゃダメよ!って」

「そうよ、大事な大事なお祈りなの」

「ぶっく、くく」

「うふふ」


どうでも良いだなんて、口が裂けても言ってはいけない。

それは誰もが理解しているこの世界の掟。


「俺もいっしょに行く」

ジルフェンがまだ少しおかしそうな顔をしながら言った。

「いっしょって、神殿の入口まで?」

「うん、いっしょに行こう?」

「良いけど・・・」

「やった!母ちゃんに言ってくる!」

そう言ってさっさと走って行ってしまうジルフェン。

なんか、めっちゃ懐かれてる。

子供はかわいい。

「さて、私も早く準備しなくちゃじいやに怒られちゃう」




急いで着替え家の外に出ると、もうジルフェンが扉の前で待機していた。

「お待たせしました、行きましょ」

私を見ると嬉しそうに顔を綻ばせる。

ジルフェンはうん、と頷いて自然な動作で私と手をつないで歩き出した。

少しビックリしたけど特に嫌なわけでもないのでそのままにしておく。

私より少し大きなその手は、毎日の農作業で豆が出来て少し硬くなっている。

思わずにぎにぎと確かめると、ビクリとジルフェンの肩が飛び跳ねた。

目を見開いてこちらを見る。

「な、なんだ? 」

「なんにも? 」

「そう・・・? 」

微妙な顔をしながらも前を向くジルフェンの横顔は少し赤くなっていた。


それから他愛もない話をしながらしばらく歩くと、神殿の前に到着した。

村から離れていると言っても本当にほんの少しで、不思議と神殿までの道中には獣どころか小鳥すらもいない。

やけに静かで、風に揺れる森のざわめきだけが辺りに響いている。

「じゃあ、ジルフェン、私はお祈りを始めるわ。送ってくれてありがとう」

「なあ、ヴェルリネ、・・・様」

「なあに? 」

相変わらず様を言いにくいようだがこの際気にせず聞き返すと、ジルフェンは言い難そうに口を一瞬開きそして止めたかと思ったら話し始めた。


「変なこと、考えたらダメだからな」


驚いた。

そういうことか。

どうりで今日はやたら懐いてくるかと思ったら。

ちょっと萌えていたのに。

「なあに、じいやに何か言われたの」

「う、違う・・・」

わかり易すぎる反応ありがとう。

ジルフェンは気まずい顔で私を見てくる。

「大丈夫よ、なーんにも考えて無い」

「絶対に嘘だ」

「ほんとよ、私、逃げたりしないわ。この村が好きだもの」

そう安心させるように微笑むと、ジルフェンの頬に一瞬で朱が走る。


「・・・わかった、お祈り、サボっちゃだめだからな! 」

そう言うなりジルフェンは元来た道を走って行ってしまった。

ちょろいわね。

私ってば超美少女だから気持ちはすごく解るわよ。


「さて、頑張るか」



ええ、逃げるなんてとんでもない。

正々堂々と、出ていきますとも。



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