前世は理系女子でした
ゆっくり進んでいきます。
なんと驚きなことに衝撃の矢倉落下事件からはやくも3ヶ月が経とうとしている。
あの後、三日三晩の熱にうなされた私は、気がついたら前世の人格に支配されていた。
かと言って前のことをすべて思い出したわけではない。
そう、ただの知恵熱である。
ただただ、ひたすらにうなされただけだった。
現世と前世が入り混じったわけがわからない夢にうなされたのに全く今世で役立ちそうな記憶は思い出していない、うなされ損である。
断片的で更に霞がかった記憶と、自分がわりと若くして死んでしまったということを思い出しただけだ。
30歳前後で死んでしまったと思う。
薬剤師をしていた。
お前、俺が居なくても大丈夫だろ系女子だった。
仕事に明け暮れて結婚の予定もなければ彼氏も居らず、ああ、このまま一人で生きていくのかしらと諦め始めた時に何らかの理由で死んでしまったらしい。
過労ではないかと予想をたてている。
そんな私は今は8歳。
なんと二度見と言わず3度4度と見てしまうような美少女だ。
ありがとう!ありがとう神様!
なんかよくわからないけどすごく良いです。
ありがたくこのプレゼント受け取ります。
この見目を活かして私は生きていく、起きて早々に決意した。
8歳誕生日3日後の昼下がり。
で、今に至るのだが。
至るのだが・・・
そう言えば、私は前世の人格に支配されていたのだった。
誕生日までは「お花さんは今日も素敵ね」と素で言っていた私だが、それはもう無理だった。
もう、もう、元には戻れない。
なんてったって見た目は子供頭脳は大人状態である。
中身は確実に三十路を超えているのだ。
眼を覚ましたと思ったらやけにふてぶてしくなっていた私を見て皆は悲しんだ。
ええ、悲しんでいた。
どれだけ美少女でも中身がこれじゃあ頂けない気持ちもわかるし、前とのギャップがありすぎて戸惑うのもわかる。
だが、もうあの心優しくしとやかで空気を読む少女は居ない。
戻れないのだ。
何度も言うが、戻れない。
ごめん。
心で、むしろ声に出して謝り続けて2ヶ月。
皆は次第にこんな私に慣れていった。
そして3ヶ月たった今はもう、可憐にふわふわしていた私のことは夢だったと思われているようだ。
人間てそんなものよ。
だけど皆の私に対する態度が変わったわけではない。
記憶が戻る前、私は皆に蝶よ花よ女神様聖女様よそりゃあもうちやほやされていた。
それは今でも変わらない。
中身は残念に豹変したが外見は変わっていないのだ。
私は緑の髪と眼をしている。
緑はこの世界の人々が信じてやまないラビナ神の色だそうな。
世界は緑に溢れていて、それはラビナ神に守られている証拠なのだとかうんとかかんとか。
正直全く興味はない。
さっき散々神様ありがとうとか言っておいて申し訳ないが・・・
神様?そんなの居るわけないじゃない。
私は根っからの理系女子だった。
記憶が戻り前世に人格を乗っ取られた今、私に非科学的なことは通用しない。
ぶっちゃけこの世界の人々はそれはもうカラフリーな見た目をしている。
青とか黄色とかオレンジとか紫とかわんさかだ。わんさか。わんさか。
そこに緑が追加されたところでいったい何だというのだ。
というわけで、都合が良いのでラビナ神とやらにあやかっては居るが私は神になど惑わされずに生きていこうと思う。
今更ながらに自己紹介をしよう。
私の名前はヴェルリネ。
神の生まれ変わりと言われる娘。
一生処じ…うえっほん。
純血で居なくちゃダメなんだってさ!
次は会話があるはず。