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異世界サラリーマン田中 目覚めたらそこはエルフ美人三姉妹の営む店の中だった!  作者: 蜂須賀こぐま・くりはら檸檬
第2話 窓際の2 土下座
6/28

2-3

いやー,スレ違いじゃなくて最早読者とのすれ違い・・・

2-3

アカゲラがくちばしで木を叩く音がする.

よく見ると森の中には細い道があった.シルフィアはこの道をたどって歩いていたのだった.

田中は道はずれの木の下に落っこちて来たらしい.

「道に戻って,歩きながら聞こうか」

シルフィアはこっくりとうなずいて歩き始めた.


「うちのお店は代々エルフ族の秘薬を扱うお店なの」

「ふむ」

エルフ?漢字変換できない.

「お父様の代から,ドワーフ族相手の取引が始まったのね」

シルフィアは肩を落としてとぼとぼと歩きながら話を続けた.


エルフは弓と太陽と森を愛し,叡智を手にして森とともに生きる一族.

ドワーフは炭鉱や鉱山に住み着き,鍛冶仕事を愛する一族.

ドワーフ族とエルフ族は,微妙に仲が悪いらしい,というかそりが合わないのだという.


「何かこう,ドワーフって髭がぼうぼうで,お酒を飲んでガハハッて感じ」

シルフィアの言葉を要約すれば,ホワイトカラーとブルーカラーということなのだろうか.

取引先で仲の良かった工場長のことをちょっと連想した.

いい商品ができると一緒に飲み歩いたものだ.

その工場長も,無理がたたって今は引退している.


「鉱山仕事だと,太陽の光から得られる栄養素がどうしても不足気味になるの.それで,ドワーフのためにお父様がニチリン草の根を煎じたポーションを作ってあげたのね」

「素晴らしいお父さんじゃないか」

いいなあ,シルフィア父.こんなに慕われて.


「お父様が亡くなった後は,いつもお姉さまが薬を作ってたんだけど・・・」「この前私が代わりに作って・・・」

はあ,とシルフィアはため息をついた.

「混ぜるマンドラゴラの分量を間違えて作って納品しちゃったの」

「死人が出たとか・・・?」

シルフィアは青ざめて慌てて首を振った.

「いやいや,そんなことはないんだけど,みんなお腹を下しちゃって,鍛冶仕事が何日か遅れてしまったんだって」

「うーむ,商品の納入ミスによる重大な損害か・・・」

「ミス」という言葉に傷ついたようで,シルフィアはさらに肩を落とした.


森はまだ開けない.道は奥へ奥へと続いていた.

鬱蒼とした木々の間から木漏れ日が射して,時々二人の姿を照らす.


「それで?」

「今から私が謝りに行くの.代金とお詫びの品をもって」

シルフィアは肩掛け鞄を軽く叩いた.

「シルフィアさんが?いや,もちろん君が原因には違いないが,しかし,差し出がましいようだが,こういったことはもっと年長の店長―お姉さんが行かないといけないんじゃないかね?」

「・・・お姉さまもそう言ったんだけど,もうすぐ魔王様が各村を回る巡幸の行事があって,準備で忙しくってどうしても行けなくなっちゃって・・・」

「それで君が・・・」

「だって私のしたことだし・・・」


二人はしばらく沈黙していた.極彩色の鳥が時々上を横切る.


「分かった.私も一緒に行ってあげよう.こういう時は年長者が一緒に行った方が心強いだろう」

「本当に?!ありがとう,ケーイチ!」

シルフィアの顔がパッと明るくなった.

可愛らしい.田中の頬が自然に緩む.

もちろん田中にロリコンの気はない.


「ところで,シルフィアちゃんは何歳かね?」

「女の子に年のことを聞くのは失礼よ」

「これは失礼だった.私にも君くらいの年の娘がいるもんで,ついね」

「へえ・・・なんていう子?」

「彩音っていうんだ.生意気でね」

「アヤネ・・・いい名前ね」

彩音はいい名前で,恵一は変な名前か.そう言えば,なぜ日本語が通じているのだろう.

今更ながら田中は不思議に思った.


「私はまだ48歳だよ」

「え・・・?」

48歳?いや,18歳の間違いだよな.48歳って,俺と二つしか違わないじゃん.

「ケーイチはヒト族?ヒト族は山向こうの町に住んでいるらしいけど,この辺じゃちっとも見ないよ.ヒト族は私たちより寿命が短いんでしょ?」

「あ,うん・・・」

そうなのか??どうやらこの世界では常識の様だ.

田中は驚きを一生懸命隠していた.

そうか,ここは地球じゃないのか,つまりこの子たちは宇宙人?

いや,待て,俺の方がこの星では宇宙人か?

ライトノベルもファンタジー小説も読まない田中に異世界というものは難しすぎた.


またしばらく二人の間で沈黙が続く.

やがて森は切れ始め,小川のせせらぎを跨ぐと徐々に灌木の林となった.

二人の前には壮大な山脈が見えてきた.


「見えてきた!あれが,ドワーフの里シグルド鉱山!」

シルフィアが指差す.

ふと,田中は気になった.

「シルフィアさん」

「はい?」

「私,何か匂うかね?」

「?」

シルフィアはくんくん,と鼻を動かした.同時に尖った耳が動く.

「枯草みたいな臭いがするね」

「そうか・・・嫌じゃないかい?」

「別に?枯草が?」

田中の突然の質問に,シルフィアは不思議そうだ.

「そうか,さあ行こう!」

何ていい娘だ!

田中はシルフィアの後を追った.

ちょっと自虐気味な今日このころ.

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