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9,瞳を染めし『刀姫』

武装型オートマキナ「叢雲」

太刀型の武装型オートマキナで、東洞家の武装型オートマキナの原初の一振りにして最高傑作にして、失敗作。

刀としては超一流。

武装型オートマキナとしては超一流。

しかし使い手を壊す。

これが問題だった。

叢雲を使ったマスターはその大半が叢雲の放つ狂気に当てられて狂人になるか、魔力の制御を崩壊させて魔獣化した。

ルリがその妖刀とも言えるオートマキナを手にしたのは十一歳。

とある事件の最中、叢雲を手にしてしまったルリは襲って来たAランク相当のサバイバー五人を斬り捨てた後、残念そうに呟いた。

「コレは…………つまらないなぁ」

それを見た東洞家の当主はルリに叢雲を渡した。

ルリが狂気に当てられなかったのは、叢雲を手にする以前から狂気と接していたからである。

ルリは物心ついた時から持つ殺害衝動を抑え続けている。

「殺したい」という感情は慣れ親しんだモノで、抑え込む事が日常だった。

今更そんな狂気に触れたくらいではなんともならない。

しかし決して狂気が無い訳ではない。

一度その狂気に身を任せれば、それこそ狂的な殺害衝動と戦闘能力を発揮する。

ルリにとって殺害衝動に従う事は最上級の快楽であり、恐怖や躊躇といった感情を塗り潰す。

その状態のルリには相手の殺し方が見える。

どこを斬ったら死ぬのか。

どこを刺したら死ぬのか。

どこを砕いたら死ぬのか。

どこを抉ったら、どこを潰したら、どこを貫いたら。

どこをどのように壊せば相手が死に至るのかがルリには見える。

その結果を導き出すのが狂気に従うルリの楽しみであり戦闘。

味方であれば相手を瞬く間に斬殺する、恐ろしくも頼もしい仲間だが、相手にすれば話は別だ。

つまり、恐ろしい精度と練度をもって自分を殺しにくる、無邪気な死神。

その死神がトウマを殺そうと迫る。

「ほんっと手加減してもらえねえかなぁルリさんよ!?」

「しないって言ったじゃん!」

「俺死にそうなんだけど!」

「大丈夫大丈夫ー!私楽しい!!」

「だからなに!?」

トウマの懇願を流したルリは興奮からか赤く見えるほどに瞳を充血させ、心底楽しそうに殺しにかかる。

「いやー、トーマってホント強いよね!すっごい殺すの難しい!」

「なら、このぐらいで諦めとけよ!」

「やだよ!?トーマ殺すの超楽しいよ!?」

「知らねえよ!?つかまだ殺されてねえし殺される気もねえよ!?」

「なんでよ!殺されてよ!!」

「だ・ま・れ!!」

悲鳴に近い会話をしながら次々と繰り出される斬撃を四肢を使って弾き、躱し、時に召喚した武器を使い捨てて防ぎ、複写術式によって複製された多数の斬撃を魔力壁で防ぎ続ける。

そうして動き回りながら罠を仕込む。

叢雲を持って狂気を解放したルリと近接戦闘をした場合、トウマの勝率は良くて三割。

これは徒手空拳と太刀という差もあるが、最も大きいのはルリとトウマの目的の差だと言わざるを得ない。

ルリはトウマを殺す気で攻撃している。

対してトウマはルリをある程度負傷させる事は覚悟しているが、殺す気はさらさら無い。

負傷でさえ最小限に抑えるのがトウマの主義だ。

「ねートーマってばー」

「んだよ!」

「いー加減本気出してよー。殺すよ?」

「初手から殺しに来てんだろてめえ!?」

「ああああもうどーっでもイイから本気出してってばぁー!!」

斬撃が止む。

叢雲を腰の位置に持って、居合いの構え。

目が据わる。

「本気出してくれないならサクッと死んでよ」

居合いの軌道に魔法陣が四枚並ぶ。

「魔式抜刀術・斬」

複写術式によって同一座標に複数の斬撃を発生させて、斬撃の威力を跳ね上げる抜刀術。

ルリは四枚の魔法陣を使い、計十六撃の斬撃を同時に放った。

「ったくめんどくせえなクソがぁ!!」

トウマの右掌に魔力が集まり、硬化し盾となる。

魔力壁と斬撃がぶつかり合い、耳障りな音を立てて互いに弾け飛ぶ。

「あはははは!!やっぱりこんなんじゃ殺せないよねぇ?さっすがトーマ!ホント殺したい!!」

「通ってんだよクソが」

トウマの右掌に一筋の切り傷が生まれ、血が流れていた。

「あれ?通ったの?」

「うるせえよ」

魔力が弾け、傷が塞がり、跡形も無くなる。

「その治癒術式はチートだと思うんだよね」

「ならお前の戦闘力もチートだろ」

「それはそれ、これはこれ」

「死ね」

軽口を叩き合って構える。

「で?トーマ逃げるのは終わり?」

「ま、取り敢えずは終わりだな。んでもって多分、おそらく、頼むからコレで終わりだ」

言葉と共にアリーナ全体に魔力が奔り、巨大な魔法陣を生成する。

「うっわ!?」

魔法陣を構成するのもまた、普通であれば術者の魔力だ。

つまり魔法陣が大きければ大きいほど、制御は困難になり、要求される魔力量も桁違いになる。

トウマは制御の部分を、魔力を直接纏ってきたが故の魔力操作の経験で補い、確実に嵌めるために試合が始まってからひたすらアリーナ内を動き回り、各所に魔力を仕込んでおく事で魔法陣の構築速度を上げている。

魔法陣の各所から魔力の鎖が伸び、逃れようとするルリに絡み、拘束する。

封印術式、封陣・縛鎖

トウマは本来なら数人で構築する封印術式を魔力量にモノを言わせて単騎で使用できる。

「縛りプレイだな!!」

「ぶっ殺すよトーマ!?」

拘束されたルリの周りをさらに四つの魔法陣が取り囲む。

「んじゃま、終わりで」

魔法陣から生成されたのは巨大な艦載砲。

魔力を使って操作して、照準を合わせる。

「死ぬなよ?」

四方から爆音と共に発射された砲弾は狙いを違わずに拘束されたルリに突き進み、爆発した。

立ち込める煙を避けて下がり、油断無く構える。

「ルリなら確実に死なない。あって重傷か気絶。普通に考えりゃぁ……」

煙が晴れる。

中心に、人影。

「…………まぁ、そうなるわな」

「んー、もーちょい本気出せない?ちょっとビックリしたけど肝心の攻撃がコレだと興醒めだよ?」

不満そうに文句を垂れるルリは、無傷とは言えないが、大したダメージを負っていない事は確かだった。

「一応聞いとくが封印術式まで使ったんだが…………どうやって抜けた?」

「わかるでしょー?私がコレ始まってから何回斬りつけたと思ってんのさ?斬撃のストックぐらいするでしょ」

「時間と座標を未設定のまま複写した斬撃をキープして、封印術式ぶっ壊して、どうせ砲弾も解体したんだろうが………なんつーかてめえがチートを語るなと言いたい」

「それはそれ、これはこれ」

「死ね」

「で?次はもうちょっと本気出してね?」

「あー、それなんだがな、タイムリミットだ。また後でな」

「ええええええ!!?ココでお預け!?」

「ちょっと待ってろって言ってんだよ。終わったらまたやってやるから」

「うえぇえ……仕方ないなぁ…………」

スッと顔を伏せたルリが再び顔を上げると、瞳の色が元に戻る。

「まー、サクッとどうにかしてきなよ。あとあんまり殴ったりしちゃダメだからね?女の子大事!!」

「わかってるがさっきまで殺しの快感に浸ってたやつに言われたくねえ」

「うるさいなぁもう!」

笑いながらアリーナの出入り口にルリが控える。

「さーて?それで、答えは?」

問いかけた先、いつの間にか立っていたシルは、感情の抜け落ちた瞳で告げる。

「私は、シルヴァリエDK224。笠木トウマのサーヴァント。私の最優先任務は」

続く、言葉。


「私の最優先任務は笠木トウマの殺害。現時刻をもって、任務を遂行します」

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