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8,狙撃手

準決勝の相手は狙撃銃を携えた男子生徒だった。

「あー、笠木トウマ、だっけか?」

「ああ。お前は?」

「俺は楽田リョウ。一応Aランクサバイバーで迂回マワルの駒って感じでいろいろ情報収集をしてる。お前はマワル先生のお気に入りだからなぁ。なんか調べてる事があれば教えてやるよ」

「迂回先生んな事してんのかよ…………なら笠木ソウゲンの情報とかも持ってるか?」

「お前の祖父で復讐の対象って事は知ってるな」

「なるほど、なかなか良い話が聞けそうだ」

笑いながら互いに魔力を奔らせる。

「ちなみに俺の情報は基本有料だ」

「使えねえ」

トウマが右手の中にリボルバーを生成し、稲妻のような抜き撃ちを放つ。

飛翔した弾丸が狙撃銃を貫く寸前、金属板が割り込み弾丸を防いだ。

「使えねえと思われるのはちょいと癪だからなぁ。一つだけこっちの情報をサービスだ。こいつは装甲型オートマキナのガードナーってんだ。簡単に言えば飛行型のシールドだな。ま、せいぜい頑張ってぶち抜いてみてくれや」

「ハッ、訂正しよう。面白いなお前」

「逆にぶち抜かれないように気をつけろよー」

リョウがヒョイと狙撃銃を構えて撃つ。

トウマの傍らに立つシルを狙って放たれた弾丸は、空中で火花を散らして弾き飛ばされた。

「…………あのなぁ、一応なぁ、亜音速の弾丸なんだがなぁ。リボルバーで撃ち落とすってお前ナニモンだよ?」

「お前だって弾丸の速度やら回転やらお前の狙撃銃の位置やら向きやらわかれば弾道予測ぐらい出来るだろ」

「俺はそれを百メートルも無い距離で亜音速で飛ぶ弾丸に適応させて当てるってのがおかしいっつってんだよ!」

「思考速度も強化してるからな。時間の流れがゆっくりだ」

「イカれてんなお前」

「そう言うなよ…………行くぞシル」

「了解です」

駆け出すシルにサーヴァント化を施して、トウマはリボルバーを両手に生成して構える。

リョウが構えた狙撃銃から弾道を予測して、逐一銃弾を射線上に撃ち込んで、シルを撃ち抜かんとする弾丸を防ぎつつ自分も少しずつ距離を詰める。

弾丸がミスリルの為に魔力壁で防ぐ事はできない。

トウマが少しでも射撃をミスした瞬間、シルに亜音速の銃弾が直撃する。

リョウとシルの距離が十メートルを切った。

「《龍血よ》!」

真紅の不壊剣が握られる。

その状況でも、リョウはスコープから目を外さずに弾丸を放つ。

地面を蹴り、一瞬でリョウの眼前に。

銃口を離れた瞬間に左手のジークフリートで弾き飛ばした弾丸を目の端に捉えながら、右手のジークフリートをコンパクトに突き込む。

リョウは落ち着いて眼前に迫る刃を銃身でいなしながら足下に加速術式を構築、即座に後方に移動しつつ、再度狙撃を開始する。

今度は一発ではなく、瞬時にシルの四肢や額に照準し、恐ろしい速度と精度の連射狙撃がシルを襲った。

「面倒なっ!技術ですねっ!?」

悪態をつきながらトウマの防御をすり抜けた弾丸をジークフリートで弾きつつ後退する。

「怪我は?」

「問題ありません」

トウマの前まで引いたシルは油断無く構えながら一瞬の死の恐怖を振り払う。

「さすがにあの速度の連射狙撃は防ぎきれねえみたいだなぁ?」

「思い出したよ。その武装型オートマキナ。前に迂回先生が市販品改造したとか言ってたやつだな。元々弾倉に復元の術式が刻印されてて、一定数の弾丸が無くなると自動でリロード直後の状態に復元される製品だ。それを無理矢理連射可能にしたとかなんとか」

「そのとーり。この狙撃銃は武装型オートマキナのショット。改造したはいいけど連射狙撃なんて誰も出来ねえって放置されてたのを貰ったんだ。俺にはぴったりでね」

銃身で肩を叩きながらリョウは言う。

「こっちとしては面倒くせえが、有効かつ強力な組み合わせだな。Aランクサバイバーってからには相当数の交戦経験があんだろ?」

「まぁ、それなりにな」

二人はへらへらとした態度を崩さぬままに、相手を倒す策略を巡らせる。

「…………シル、あいつを一撃で倒せるか?」

「申し訳ありません。先程のように狙撃されては、私では防御に手一杯で反撃は難しいかと」

「狙撃が無ければ?」

「可能です」

「倒せるなら、お前が自分で防げるのは何発かわかるか?」

「精々二発、確実にと言うなら一発防ぐのが限界です…………申し訳ありません」

「気にすんな。一発防げりゃそれで十分だ。あとは任せろ」

「了解です」

シルが駆け出す。

狙撃と、それを防ぐ銃撃が再開される。

先程と同じ、十メートルを切る寸前。

シルが加速する。

それと同時にリョウが連射狙撃を開始した。

四肢に額に、さらに防御のためのトウマの銃弾にすら向けて放たれた弾丸は全部で十五発。

「さーて、お仕事の時間だクソがぁ!!」

吠えると同時に肉体をそして思考を強制的に加速させる。

周りの風景が止まり、音が消える。

トウマが現在の状態で行える、ほぼ限界の思考加速。

同じく強化の強度を上げているはずの自分の動きすらスローになる。

両手のリボルバーに魔力を通して構える。

本来ならいくら狙撃の弾道がわかったところでリボルバーでは狙撃銃から放たれる亜音速の弾丸を弾く事は不可能だ。

狙撃銃とリボルバーでは弾速が違い過ぎるのだ。

その弾速の差を無理矢理に埋めているのが、トウマの生成したリボルバー。

邪砲・ウロボロス

弾倉から銃身、そして装填されているミスリル弾にすら表面に通常の金属をコーティングして、多数の術式を刻印してある魔銃にして邪砲。

トウマが最もよく使う武装であり、この銃や弾丸に刻まれている加速術式が物理法則を無視した速度を弾丸に与えている。

防ぐのは、シルを狙う弾丸と周りの跳弾によるシルへの攻撃。

シルへの直接の攻撃が八発。

跳弾による攻撃が四発。

跳弾の補助のための弾丸が二発。

そして本命の、魔力を乗せた徹甲弾が一発。

トウマはその内の跳弾補助と本命を除く十二発を両手のリボルバーで迎撃した。

残りは宣言通りに一発。

リョウの目が、微かに驚愕に彩られる。

そのリョウはシルの射程内。

胸部を、恐らく心臓を狙って放たれた弾丸を左手のジークフリートで弾き、もう一方の刃に魔力を乗せる。

「終わりです」

冷めた瞳で言ったシルに、リョウはしかし、嗤って応える。

「折角のサービスを無駄にするとは良くねえなぁ」

振り下ろした刃が、止まった。

「所詮偽物のAランクとはいえあんまりサバイバーを舐めると…………死ぬ事になる」

魔力を乗せて、渾身の力で振り下ろされた刃は、飛翔した金属板、否、装甲板に受け止められた。

サーヴァントすら砕いた必殺の刃は、内包したその死を届けられぬまま、完全に、

停止した。

唐突に訪れる混乱が、シルの思考をサーヴァント化の強化を超えて加速させる。

『何故、自分の攻撃はあんな装甲板一枚で止められたのか?』

────そういう術式が組まれていたから。

『自分の今の状態は?』

────ジークフリートを振り下ろした体勢のまま、空中。

『相手の状態は?』

────こちらに銃を向けようとしている。

『この後自分に訪れる結末は?』

────銃の動きから、恐らく狙いは(ヘッド)。引き金が引かれた瞬間、銃口から見える鈍い銀色のミスリル弾が、肉体強化を無視して額を砕き、脳を破壊し、貫通する。

『その結果?』

────私は、死ぬ。

『打開策は?』

────たった一つだけ、ある。でも、それを使って、ここで使ってしまうと

『使ってしまうと?』

────私は、私は恐らく、


(私は、シルヴァリエDK224は、笠木トウマを殺せなくなる)


思考による身体の停滞は、たとえ加速していても致命的だ。

ゆっくりとした世界で、銃口がぴったりとシルの額を指す。

「んじゃま、さよな……ッ!?」

言いかけたリョウの顔が驚愕に染まる。

同時にシルの制服の襟が恐ろしい強さで引かれた。

流れる視界で捉えたトウマの顔は、いつもの軽薄な笑みは鳴りを潜め、必死さと何かに縋るような表情をしていた。

シルと入れ替わるように、トウマがリョウの射線に身を晒す。

瞬間、僅かに銃口が下り、発射された弾丸はトウマの腹部を貫いた。

鮮血が宙を舞う。

魔力壁で衝撃波は殺したようだが、弾丸そのものは腹部を貫通しているのだ。

重傷には違いない。

マスターが重傷を負って戦闘不能になればもちろん敗北だ。

しかし諦めかけたシルを嘲笑うように、トウマは無理矢理笑みを浮かべ、シルに手を伸ばしてその名を呼んだ。

「シル!やれ!」

声と共に、投げられたシルの進行方向に膨大な魔力が集まる。

空中で身体を操り、展開された魔力壁を蹴りつけて加速する。

ガードナーがシルの攻撃を阻むために動く直前、トウマが魔力を纏い殴りつける。

するとシルの全力の一太刀を防いだ絶対の装甲は、大した抵抗すら見せずに吹き飛んだ。

驚きはしたが、これで道が出来た。

再度、両手にジークフリートを生成し、構えられた狙撃銃を斬り刻む。

素早く腰の拳銃へと伸びた手を掴み、首筋へ刃を添える。

「………終わりです」

「そーみたいだなぁ。俺の負けだ」

その言葉を聞いて力を抜く。

「それはそうと、お前のご主人様はいいのか?」

言われて思い出す。

トウマは自分を助けた時、腹部を撃ち抜かれている。

ハッとして振り向いた先で、魔力が弾けた。

「いやー危なかった。シル無事か?」

「わ、私は大丈夫ですけど、トウマ様傷は!?」

「うん?あぁ、大丈夫。もう治した」

「は?」

「いや待てよお前。一応腹貫通したと思うんだが?俺っちの記憶違いか?」

「んな訳ねえだろ。しっかり貫通しとるわ。治癒術式ぐらい知ってんだろ」

「治癒術式であれだけの傷がこんな短時間で治るわけねえだろ!何しやがったお前」

「いや俺が使ったのは治癒術式だぞ?使用する魔力量上げて回復速度上げただけだ」

「あぁ…………お前の魔力量ならできるわな」

呆れた表情をしていた。

「つかガードナー吹っ飛ばしたのはなんだ?お前の魔力特性って対生物特化だろ?どうやって俺の術式を無効化した?」

「んー、教えてもいいが俺のトップシークレットに近いからなぁ……それなりの対価がねえと、な?」

「俺はお前に情報を無償で提供しよう」

「期間は?」

「もちろん無期限だ」

「よほど知りたいんだな」

「俺の趣味は情報収集だからな。まぁそれよりか俺の魔力特性と相性完璧な術式を無効化されたのが気になる。アレは物理的な攻撃にはほぼ無敵の防御力があるはずだ。対抗策が存在するなら知っておきたいのは当然だろ?」

「なるほど。ちょっと来い」

リョウが近寄ると、トウマは魔力で小さなドームを作る。

「コレは?」

「まぁちょっとした防音室ってとこだな。聞かれるとイロイロ問題なんでね」

「へぇ……で?何がそんなにヤバいんだ?」

「あー、そういやシルにも言ってなかったっけか?」

「はい。私も何故あの防御を無効化できたのかわかりませんが」

少し怒ったような声音で答えたシルに内心首を傾げながらトウマは続ける。

「まぁタネを明かせば簡単な事だけどな。俺は対生物特化の他に、『暴虐』特性の魔力も使えんだよ」

「…………魔力特性が二種類だぁ?なんでそんな事ができんだよ?魔核から生み出される魔力の特性は変わらないはずだが?」

「そこからは俺のトップシークレットだ。迂回先生に聞けば教えてくれるんじゃないか?」

魔力のドームを解除してから立ち去るリョウに声を掛ける。

「なんか情報収集頼むかもしれんがそん時はよろしくな」

「任せろ。それよか俺に勝ったんだから適当にあの嬢さんも倒しといてくれよ」

「あー、まぁ、多少は努力するさ」

やる気の欠片もない返答をした後、シルに向き直る。

「…………で?何が不満なんだ?」

「私は言ったはずです。自分の安全を考慮してくださいと」

「それがどうした」

返答にシルが声を荒げる。

「先ほどの場面、あの状況で私を囮としていれば防御に構う必要も無くあのマスターを倒せたはずでした!何故私を助けて、その上トウマ様が撃たれているのですか!?」

「あいつはお前を殺すつもりだった。狙いは確実に(ヘッド)だったし、俺への射撃から見ても躊躇なんてモノは無かっただろう」

「なら尚更です!何故躊躇の無い人間の射線に身を晒して、尚且つ撃たれてるんですか!?あのまま頭を撃たれていればトウマ様だってタダでは済みませんよ!?」

「全く持ってその通り。だが俺がシルを助けなければ、確実にお前は殺されてただろ?」

「それがどうしたと言うのですか!?私はあくまでサーヴァント、人形ですよ?それに命を賭けるなんてそんな馬鹿げた事を」

「なぁ、お前さ」

シルを遮ってトウマが口を開いた。

品定めをするような、全てを見通しているような、それでいて何かを願うような、そんな瞳がシルを映していた。


「お前は、俺の人形のシルヴァリエDK224なの?それとも俺の仲間のシルなの?」


「そんなの分かりきった事でしょう。私はシ」

「簡単に言うなよ。俺は聞いてんだよ。お前は誰だってな。俺の仲間か、得体の知れない人形か」

黙ったシルに薄い笑みを向けながらアリーナの出入り口を指す。

「ま、本当の答えが出るまでじっくり考えな。それまでお前は出場禁止。答えが出たら戻って来い。それまでぐらいなら生き残っててやるよ」

「そんな、事は」

「マスター命令、な。何度も使わせんなよ胸糞悪い」

マスター命令と言われては逆らえず、シルは無言でアリーナを後にした。

「んー、面倒な事になったもんだな。自業自得感は否めないけど」

「良かったの?あんな突き放し方して」

トウマの後ろにルリが立っていた。

「仕方ねえだろ。死ぬのは論外だ」

「まー難しいトコだよね。サーヴァントか人間か。人形か人間か。曖昧だからこそ、ね」

「まぁ、それはそれとして」

くるりとトウマが振り返る。

「図らずも俺とお前の一騎討ちなわけだが…………気分は?」

「まー控えめに言って、最高」

獰猛な笑みを浮かべてルリが言う。

「久々だからねぇトーマと本気で殺るのは。楽しみで仕方ないよ」

「ハッ、俺はサーヴァントも居ない実戦評価Fの雑魚なんでね。手加減してくれると嬉しいなーなんて」

「すると思う?」

互いに、苦笑。

「いや全く」

瞬間、ルリの瞳が赤く染まり、トウマは首筋へ迫った太刀を右手の甲で弾く。

「イイねぇ!殺ろうよトーマ!」

「まぁ努力しますかねぇ!!」

狂気に身を任せた少女と、落ちこぼれの少年の殺し合いが、始まった。

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