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7,学年上位の力量

「おいティリア」

「はい?」

通路を歩く、くすんだ金髪の幼女を見つけたトウマは不機嫌そうに声を掛ける。

「なんで棄権した?」

「さて、なんでだと思いますか?」

ふわりと笑ってティリアは返す。

「質問に質問で返すな」

「それはすみません……で、なんでだと思いますか?」

質問は変わらなかった。

「あー、自分は一位だから他の人に評価の場を譲る、とかか?」

「それが無いとは言いませんが、それだとトウマさんと戦えませんしルリさんに何されるかわかりませんから」

苦笑を交えつつティリアは続ける。

「答えはなんのひねりも無いですよ。ちょっと名指しで依頼が入っただけです」

「そういやお前サバイバーだったな。なら仕方ないか」

魔導学園の生徒の中には既にサバイバーの資格を持つ者も居る。

特にティリアをはじめとする上位ランクの生徒の中には、並みの現役のサバイバーよりも高い能力と戦力を持つために、名指しで依頼が入ることもある。

「まぁ断りたいのは山々なんですけど、内容が少し緊急性が高いモノでして。断ることが難しかったんです」

「緊急性が高い?大丈夫なのかそれ」

「あまり詳しくは言えませんが、簡単に言うとこちら側に魔獣が持ち込まれた可能性があるそうです。それも多数」

「ヤバイだろそれ」

「ええ、私が行うのも調査のみで隠密行動を徹底しろと言われました」

「何処かの研究所が研究資料とかで持ち込んだとかじゃないのか?」

「トウマ様、それも違法です」

それまで黙っていたシルが口を開く。

「魔獣の研究を行う際の資料として魔獣を直接使用する場合、こちら側に持ち込んで良いのは基本的に魔獣の死骸のみです。生きた魔獣をこちら側に持ち込むなど国家直属の研究機関でもかなりの数の審査を通さないといけませんし、その場合万が一に備えて学園に警告がされるはずです」

「そうか…………くれぐれも気をつけろよティリア」

「ご心配ありがとうございます……では私は行きますね」

「ああ、頑張れ」

ティリアを見送った後、アリーナに向かいながらトウマは考える。

「魔獣が多数持ち込まれる、ね。あり得んとは思うが魔獣側に内通者?いやそれもおかしいな。メリットが無いに等しい。そもそもんな事に首突っ込んでティリアは大丈夫か?」

「それなら心配無いと思いますよ」

独り言を垂れ流していたトウマにシルが口を挟む。

「先程の試合中の身のこなしとオートマキナの性能と扱いから見てティリア様はサバイバーの中でもかなり高位に属するでしょう。Aランクの魔獣ならば数で相当不利でない限り負ける事は無いでしょうし、Sランクの魔獣でも相手が単独であれば時間をかけて撃破出来るでしょう。伊達に実戦評価SSではないということですね」

「マジか」

「マジです」

「それ俺殺り合ってたら死んでんじゃねえか」

「…………?」

「いや不思議そうな顔すんな。シルがどう思ってるかは知らんが俺はあくまで実戦評価Fの落ちこぼれだぞ?」

「落ちこぼれでしたら準決勝まで残れないと思いますが」

「そりゃあ俺が強いんじゃなくてこの学園の生徒が対魔獣戦の技術が無いからだ。今教えられてるのは対人戦の技術で、魔力量がほぼ同格の相手を想定した技術だ。魔力量がマスターとは桁違いの魔獣を相手にする技術じゃないんだよ」

アリーナの入り口から中を覗く。

対戦しているのはルリと学年三位の男子生徒。

「あいつ遊んでやがるな?」

「その様ですね。まぁ本気を温存しているとも言えますが」

「いやー、ルリはそういう性格じゃねえだろ」

男子生徒は槍を使って上手くルリの攻撃を捌いている様に見えるが、ルリの斬撃を捌き切れずに僅かに身体が泳いでいる。

加速術式を使えば容易に一太刀入れられる隙だが、ルリは悠然と構えるだけで追撃をしない。

「そもそもルリが本気で斬ればあの槍多分斬れるしな」

「あちらの武器も中々の品だと思いますが…………あの武器はそこまでの業物なのですか?」

「あぁ、アレ業物とかのレベルじゃないから。普通に魔剣とかのレベル」

「オートマキナですよね?」

「ああ。東洞ってわかるか?」

「東洞グループでしたら武装型オートマキナの大手企業で、多数のサバイバーを雇っている事ぐらいは知っています」

「そのとーり。で、ルリが使ってるアレは東洞の中でも最高傑作の一つって言われる武装型オートマキナ。確か叢雲っつったかな?製品版のプロトタイプらしい」

「プロトタイプなのに最高傑作ですか」

「プロトタイプだからこそ、だ。製品版には実装されてない機能でもあるんだろうさ。まぁそう考えれば、製品版はアレの劣化レプリカってとこか」

ルリはトウマが飽き始めたのを目敏く見つけると、ニヤリと笑ってわざと広く間合いを取る。

男子生徒はそれを見て槍を地面に突き立てる。

地面に魔法陣が浮かび上がり、引き抜いた槍は形状を変えていた。

「あれは…………硬化術式ですか?」

「みたいだな。砂の粒子をあの形の物体として定義して固めてんだろ」

槍はその中ほどから鋭い円錐形に砂が固まっている。

「いわゆるランスねぇ…………可能性ゼロ」

「ゼロですか」

「ゼロだね。ルリは単体のミスリル程度なら欠伸しながらでも斬れるからな。魔術だろうが抗魔素材でも大した金属でもない砂固めた程度じゃ奥義すら使わねえよ」

男子生徒がランスを構えた瞬間、小さく鍔鳴りが響く。

構えを解いたルリが全力のドヤ顔でトウマ達を見ていた。

「ドヤァ」

「死ね」

口にまで出してきたルリに暴言を吐いて、トウマは寄りかかっていた壁から体を起こす。

ルリが足取りも軽くアリーナから退場する。

その背後で、硬化させた砂のランスを認識すらできずに解体され、頰に一筋の浅い切り傷を負った男子生徒が膝をついた。

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