3,初戦
話を微妙に進めつつ若干(?)説明回です。
戦闘描写ェ…………。
沸き上がる歓声。
充満する熱気。
実況が観客を煽り、その度にボルテージを上げていく会場。
「…………なぁ、ルリさんよ」
「なんだいトーマ君?」
「なんでこんなに生徒集まってんの?定期戦ってもっと淡々と行われるもんじゃないの?なんでイベントのテンション?」
「まぁほら、あんまり争いの雰囲気出すと世間体的にアレだからイベントにして平和を喜ぼう的な感じにするように学園が配慮した結果?」
「帰っていいか?」
「ダメに決まってるでしょ」
心底面倒臭さそうなトウマの言葉を切り捨てる。
「じゃあ私とシルちゃんは観客席で見てるから頑張ってねー。くれぐれも負けないでね。久々にトーマと戦うの楽しみにしてるからさ」
「お気をつけて、トウマ様」
二人に適当に手を振って別れ、トウマは模擬戦用アリーナに足を踏み入れた。
『さぁ続いて登場したのは一年E組の笠木トウマ!保有魔力量評価及び体術評価は最高ランクのSS!しかしオートマキナが使えず実戦評価はなんとFの通称無能天才!初出場となる今回はどんな戦いを見せてくれるのか楽しみだァ!』
実況が観客を煽る。
「本人前に言う事かよチクショウ」
微妙に実況席を睨む。
『さてさてさて!両者出揃い審判の先生は………オーケー!さぁ準備は整った!戦いを始めよう!両者よーい────』
相手の男子生徒が構える。
次いで剣を持った人型のサーヴァントも構えた。
トウマは身体の力を抜いてゆったりと立つ。
『──GO!!』
その声とともに相手のサーヴァントが猛烈なスピードで接近し、両手で持った剣をトウマに突き込んだ。
この学園ではあらゆる戦闘に安全が考慮されていない。
刀剣であれば刃引きをし、弾丸にペイント弾を使う生徒も多く居るが、銃弾はともかく刀剣に関してはサーヴァントが使えば結局相手に甚大なダメージを与えてしまうのでほぼ意味が無い。
入学時の制約により、在学中の怪我や死亡は自己責任となっているので学園の責任は無い。もちろん学園側も最大限の治療を行うが、毎年確実に死者は存在していた。
そもそも学園の目的である魔獣討滅者の育成という面を考えれば、この程度の模擬戦で簡単に死ぬようでは対魔獣の戦力としてカウントできない。
それ故、魔獣討滅者は通称サバイバーと呼ばれる。
多くの観客が回避しないトウマの敗北を悟り、
トウマはその剣を無造作に突き出した左手で止めた。
音も無く両者が激しくノックバックする。
観客と相手のマスターが唖然とする中、トウマは軽く肩を回す。
「ま、問題ないな」
トウマが息を吐く。
瞬間、トウマから膨大な量の魔力が溢れ出す。
保有魔力量評価SS
本来その枠にすら入らない異常な魔力量。
その魔力で行う暴力的な力押しがトウマの武器だ。
立ち直った相手のサーヴァントが再度突進の構えを取る。
トウマは僅かに身体を沈めて跳んだ。
平均的なマスターの数倍の強度で行われるトウマの肉体強化は、軽いジャンプでトウマの身体を二十メートル近く跳ね上げる。
「多少は耐えてくれよ?」
薄く笑って身体を回転させながら落下するトウマに対して、真下のサーヴァントは剣を引いて迎撃の構えを取る。
トウマが繰り出したのは空中に魔力で足場を作り、地面に向かって跳ぶ落下速度を加えた強烈な回し蹴り。
本来ならトウマの足はサーヴァントの剣に斬り飛ばされるが、衝突の寸前にトウマの足を濃密な魔力が覆って魔力壁を作り出す。
サーヴァントの足が地に食い込み、トウマは弾き飛ばされる。
空中で体勢を立て直して着地したトウマを弾丸の嵐が襲った。
咄嗟に転がって避け、避けきれない物は魔力壁で防ぐ。
相手のマスターがアサルトライフルの弾倉を交換している。
サーヴァントが単調な攻撃で相手の動きを誘導してマスターが遠距離から攻撃するというシンプルだが確実な戦法だ。
休む間もなくサーヴァントと銃弾がトウマを追いかけ、トウマはひたすら回避と防御に徹する。
観客達も盛り上がり、中には逃げてばかりのトウマへのブーイングも混ざってきた。
「ま、長引かせるとだるいしな」
言葉と共にトウマが足を止める。
タイミングは銃弾が途切れた瞬間。
サーヴァントが突進の構えを取ると同時に再度魔力を巡らせる。
身体が軽くなり、同時に押し込められているような窮屈さを感じる。
仕方のない事だ。
本来この魔力は人間のモノではないのだから。
肉体強化の強度を上げて思考をブーストさせる。
今までより数段スピードが落ちて見えるサーヴァントの剣の腹を左裏拳で殴り軌道をずらして回避、胴体に掌底を叩き込んで吹き飛ばす。
驚愕に固まるマスターに接近して手刀を首に添える。
「痛いのは嫌だろ?」
囁いたトウマに悔しげに頷いたマスターはアサルトライフルから手を離し、起き上がったサーヴァントに剣を置かせた。
「勝負あり、笠木トウマ!」
審判の声でトウマは手刀を下げて魔力を散らす。
そして勝利の余韻も沸き起こる歓声への関心も無くスタスタとアリーナを後にした。
トウマが観客席のルリとシルを探し当て、隣の席に座ると、シルが興奮気味に話しかけた。
「トウマ様!何ですかあの魔力量!?常人のレベルじゃありませんよ!?なんであんなに強いのに無能天才なんて呼ばれてるんですか!!」
「ちょっと待てシル落ち着け近い近い近い!!」
「なっ、申し訳ありませんっ!」
シルは赤くなって身を引いた。
「あー、取り敢えずアレが俺の戦闘スタイルな。つかアレしか出来ねえ」
「……そうすると、私とトウマ様で同時攻撃ですか?」
「まぁ、そうなるだろうな。一応、初撃をシル、相手の反応見て俺かなぁ?あとはテキトーに?」
「ホントにテキトーだね!?」
「仕方ねえだろ。シルはともかく俺のバリエーションが皆無だからな」
トウマが対応出来るのは結局のところ基本的な戦術だけだ。
「そう言えばトウマ様の固有術式とかは…………?」
「あー悪い。俺の固有術式ヘボいんだわ。ウェポン・オブ・アルケミックって大層な名前ついてるが実際はただ武器作るだけだからなぁ……」
「神器作ればいいじゃん」
「俺に命を削れと?」
「えっと、アルケミックってことは錬金術系の術式ですか?」
固有術式は言わばマスターやサーヴァントのオリジナルの術式で、ある程度魔術を修めた者であれば作ることができる。サーヴァントは製作者が設定する事が多い。
「いや、そこは名前詐欺だ。本当は召喚系の術式も混ざってるから等価交換の法則は無視出来る。可能な限り想像通りの武器を作るって術式だな」
「…………?なぜ使えないんですか?相当強い術式だと思いますが」
「普通のマスターならな。サーヴァント化出来ねえ武器とかただの重りだろ」
「サーヴァント化出来なくても魔力を纏わせるだけで十分実戦レベルで使えるのでは?」
「それなら殴った方が早いし強い。全力で魔力叩き込むと自壊するし」
「…………」
無能天才の真髄である。
「あ、シルって武器使うか?なんなら作るけど」
「いえ……私の場合大抵の武器はインパクトの瞬間に砕けるので無駄になるかと」
「要は壊れなきゃいいんだな。ベースは接近戦だから…………双剣の短いのとか使えるか?」
「使えない事はないですけど…………ホントに壊れますよ?」
「オーケー問題無い。不壊剣は作った事ある」
「それ神器じゃないの?」
「いや、武器に魔核作ればまず折れないし、折れてもその瞬間勝手に直る」
「武器に魔核っておかしいでしょ」
魔核とは魔力を発生させる器官だ。マスターの素質を持つ者の体内にある日突然生成される。
「所詮一時的なもんだけどな。永続化は無理だよ」
そう言うとトウマは両手を開いた。
「設定は、そうだな、三十から五十センチ、厚みは適当でいいか。短剣みたいなもんか?逆手も可能にしよう。刺突より斬撃重視で重さも適当だな。オーケーこれでいい」
トウマが息を吸って、止める。
魔力が収束する。
「《ウェポン・オブ・アルケミック》」
呟いたトウマの両手に魔法陣が浮かび上がり、次の瞬間魔力が弾ける。
手の上に、二振りの短剣。
色は黒く、刀身には複雑な模様が浮いている。
「完成だな。銘は、そうだな……ジークフリートでいいか。確か不死身の騎士とかだよな。うん。それでいいや」
かなり適当である。
「これ戦闘中に使えない術式じゃない?生成まで時間かかりすぎでしょ」
ルリの言う事は正論だ。
戦闘中にのんびりと武器など作れない。
「初めて作る武器はイメージをしっかりしないとガラクタになるからな。一回作ればタイムラグ無しで出せる」
そう言ったトウマはシルにジークフリートを渡して右手を振る。
握られたのはリボルバー。
「いやリボルバーて。トーマ弾丸強化出来ないじゃん」
「それは逆だ。装填されてんのはミスリル弾だ」
抗魔物質
読んで字の如く魔力の影響を受けにくい物質である。
代表的な物質は、魔力全般に強力な効果のあるミスリルや、限定的だがヴァンパイア系統の魔力に絶対的な効力を持つ霊銀などが挙げられる。
しかし、それら全てが魔力で錬成、または召喚が可能だ。
理由は未だ不明。
「それ対魔獣仕様じゃないの?」
「マスターだのサーヴァントにも使えるぞ。肉体強化とかサーヴァント化の強化とか無視でブチ込めるからな」
そう言うとトウマはリボルバーをポイと放る。
するとリボルバーは空中で粒子化して消えた。
「シル、ちょい貸して」
「え、あ、はい」
シルに預けていたジークフリートを貰うとトウマは切っ先を重ねて目を閉じる。
「よし、そんじゃま…………《力は牙に、牙は主人に回帰せよ。我は力を継ぎし者、その目覚めを承認する》……っとほい」
「はい?」
ストッと軽い音を立てて、トウマは二振りの短剣をシルの腹に突き刺した。
「……へ?」
痛みを感じる間も無く、シルの意識は闇へと落ちた。