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2,学生寮のひと時

三話と統合しました。

「さて、そんじゃまぁ取り敢えず自己紹介でもしようか」

マワルが用意した学園指定の制服を着たシルと共に、学生寮のトウマの部屋に来た三人は向かい合って座った。

「俺の名前は……言ったな。笠木(かさぎ)トウマだ。歳は十七。趣味は料理とネトゲと寝ること。以上」

そう締めたトウマはルリに次を促した。

「あ、私もやるのね。名前は灯当(あかりべ)ルリ。歳は同じ十七。よろしくね」

「トウマ様とルリ様、歳は二人共に十七、そして男女…………ふむ」

反芻し終えたシルはそっと爆弾を投下した。

「ちなみに…………ちなみにお二人はどのような関係で?」

「「ブッ!!?」」

二人して吹いた。

「なっ、ちょっ、何言ってんのあなたは!?」

「そうだぞシル?俺がこんな生意気なアホと関係なぞハイすいません俺が悪かったです殺さないでルリさん」

ルリが赤い顔のままトウマの首に太刀を添えていた。

「取り敢えず仲は良いんですね」

「まぁそれは否定しないがな…………」

トウマは太刀を収めたルリを見ながら肩をすくめた。

「それじゃ、シルの事も教えてくれ。当たり障りの無い事だけでいいからさ」

「そう、ですね。名前は………シル?識別名は【シルヴァリエDK224】。一応ホムンクルスと言う事になりますかね」

シルが曖昧な記憶を思い出すような様子で話しているのを見てルリは問い掛けた。

「無遠慮な事聞くけど、あなたっていつ造られたの?」

「ホント無遠慮だなオイ」

「いえ、私は気にしませんから大丈夫ですよ

ルリに流し目を向けたトウマをシルがなだめた。

「私が造られたのは、そうですね…………約三年前ですね。それから生命凍結処置を施されて眠っていました」

「三年前?それ知識とかどうしたの?」

その問いにシルは少し苦笑しながら答えた。

「それはまぁ、ホムンクルスですので」

「あー、あと俺から質問一ついいか?」

トウマが言いにくそうに問い掛ける。

「シルはさ、その、なんだ…………いつまで俺のサーヴァントでいてくれるんだ?」

その問いにシルは何を言っているのかわからないと言ったような表情をする。

「…………どういう意味ですか?」

「……? いやだってシルって一応学園に所属してるだろ?少なくとも俺が卒業したら俺のサーヴァントやってる訳にもいかないだろ?」

「いえ……そんな事はありませんが」

「…………わっつ?」

「私の事マワル様から聞かされてないんですか?」

「いや……聞いてない。ルリ聞いてるか?」

「マスターのあんたが聞いてない事私が聞いてる訳ないでしょ」

当然とばかりに胸を張られてもトウマが困るだけである。

「…………それでなんなんだ?その話ってのは」

「まぁなんと言いますか、ホムンクルスの宿命と言いますか」

「ホムンクルスの宿命?」

「寿命、じゃない?確かホムンクルスは生命的に不安定なんでしょう?」

ルリの言葉にシルは頷く。

「その通りです。ホムンクルスは共通して寿命が短いんです。ちなみに私の寿命はあと一、二年でしょう」

「だから俺のサーヴァントのまま死ねるってか?」

トウマが仄かな怒りを宿して言う。

「いえ、そうではありません」

しかしシルはあっさりと否定した。

「確かに私の寿命はあと一、二年ですし、何もしないで過ごせばその通りになるでしょう。生命を維持する方法は基本的にただ一つ、魔力の定期的な供給です。それも私が適応し、私に適応する魔力の」

「シルが適応し、適応する…………?」

謎かけのような言葉だった。

「私はサーヴァント化の際の魔力に呑まれないように調整、つまりトウマ様の魔力に適応するように造られています。あとはトウマ様が私に魔力を送ってくれれば生を繋げます」

「どうして魔力で寿命が延びるんだ?確かに魔力は肉体を強化できるしシルの肉体的な脆弱性を補うには十分だとは思う。だがそれはあくまで治療であって延命じゃない。ならシルはどうして魔力を必要とする?」

「ホムンクルスは基本的にどう造っても何処かしらに欠陥を抱えます。現状では何故その欠陥が生まれるのかはわかっていませんが、そうなります。私の場合はその欠陥を心臓、つまり魔核に持つようにマワル様が調整し続けて偶然生まれた成功例という訳です。まぁつまり魔核が魔力を生産できずに心臓そのものが崩壊するので外部から魔力を取り込もう、という事でトウマ様が必要なのです」

まぁ正確にはトウマ様の魔力ですが、とシルは笑った。

「なんつーか、マジで?」

「はい。マジです」

真顔で返されては認めざるを得なかった。

「えっと、その、よろしくな。これから」

「はい。こちらこそよろしくお願いします」

トウマの言葉に、シルは柔らかい笑顔で答えた。

「と、言う訳でトーマに義務が発生しましたー」

「は?」

唐突なルリの言葉にトウマが声を漏らす。

「あんた今シルの正式なマスターになった訳でしょ?」

「まぁ、そうだな」

「私たちの学園に定期戦あるの知ってるでしょ?」

「知らん」

言い切った,。

太刀がトウマの顔めがけて突き出された。

魔力壁にぶつかって止まった。

「いちいち殺そうとするの止めて頂けませんかね!?」

「あんたはッ!卒業する気がッ!あるのかッ!!?」

冷や汗を流すトウマ、烈火のごとく太刀を突き込み続けるルリ、その二人を楽しそうに見つめるシル。

有り体に言えば非常に近所迷惑である。

主に二人が。

「だいたいその定期戦だって確かサーヴァント使える奴限定だろ!?俺関係無いじゃん!?」

「だから今関係あるでしょそもそも人の話を聞いてなさいよこのバカ!」

「バカとか言うな!俺がバカみたいだろ!?」

「バカだから言ってんのよ!いい加減常識的な行動をしなさいよ!」


閑話休題。


「で?定期戦がなんだって?」

「だからサーヴァントがいるマスターは二週に一回の定期戦に参加しなきゃいけないの。学園の取り決めだから文句は言えないし。これが義務ね」

その言葉にトウマは顔を歪める。

「んな頻繁に模擬戦なんざしなくてもいいと思うがなぁ。だるいし」

「それはだいたいの生徒が思ってる事。まぁ、みんな順位には敏感だし評価を少しでも上げたいしで必死だからねぇ。適当にやると負けるよ?」

ルリがニヤリと笑いながら言う。

「別に気は抜かねえよ。だるいけどな。まぁ、シルも居るし負けは無いだろ。多分」

「あの、トウマ様?私そんなに強力なサーヴァントじゃないですよ?」

「ん?あぁ、いや、すまん。シルをアテにしてる訳じゃない。いやまぁ期待はしてるがな?俺が今までサーヴァント無しで戦ってたんでな。それよりかマシって事だ」

「戦っていた?サーヴァント無しで………?」

トウマの言葉にシルが首を傾げた。

「失礼ですが…………どの様に戦っていたのですか?」

「ん?いや普通に肉体強化して」

「…………一般的なマスターが行える肉体強化程度でサーヴァントを無効化、またはかい潜ってマスターを倒すなんて芸当は到底不可能だと思いますが」

その当然とも言える問いに、トウマとルリは苦笑しつつ顔を見合わせた。

「あー、なんつーかな?」

「まぁ、実際に見ないと信じられないって言うか、普通じゃないしね」

「………?」

二人の言葉にシルは首を傾げるだけだ。

「んー、ま、一戦目だけ見てりゃいいだろ。確かトーナメント形式だよな?」

ルリが頷くのを見てトウマはシルに言った。

「んじゃ一戦目は俺が一人でやるからシルは観戦、二戦目に向けて俺との連携だの何だの考えててくれ。まぁ、多少は俺も合わせるから安心しろ」

「はぁ、わかりました」

シルの了解を得て、トウマはルリに問う。

「で、定期戦とやらの俺の試合って何時だ?」

その問いに携帯端末を開いてトーナメント表をチラリと見たルリはニッコリと笑って言う。

「────明日の朝イチね」

「迂回先生謀っただろてめええええ!!?」

やっぱり近所迷惑だった。





「明日腹痛とかなって休めねえかなぁ」

散々にマワルへの愚痴不服文句を撒き散らした後で、簡単に定期戦のルール等の確認をしてからトウマが寝そべりながら呟いた。

「やる気の欠片も感じないね…………」

自分も寝そべりながら呟く。

「少しは出してもらわないと困るんですけどね……」

シルも苦笑を漏らす。

「いやね?俺がそこそこ強けりゃいいですよ?でも少なくとも周りから見れば俺サーヴァントすら使えねえ実戦評価Fの雑魚なんだわ。それが今更サーヴァント使えるようになったんで模擬戦参加しますとか言ってもなぁ」

「いやどうせ勝てるじゃん?問題無いでしょ?」

「それはそれでマスターが前衛で闘うっつー中々普通じゃねえスタイルで勝つんだけどな?」

「前衛なんですか?」

「残念ながら俺に援護とか向いてねえんだよ」

自分自身に呆れたように投げやりに言う。

「できるのは援護って言うより…………攻勢防御?」

「あー、それ近いな」

「どんなマスターですかそれ」

「武装型でも使わない限りサーヴァントが前衛でマスターが後衛、マスターは術式魔術やら何やらでサーヴァントを援護するのが普通だけど俺が普段使う術式魔術ってあくまで自己戦闘の延長だから広域殲滅とかに偏ってんだよ」

「本当に自分にサーヴァントが居ない想定なんですね」

「そりゃ今まで使えなかったからな。まぁそもそも俺の家がサーヴァントを使わない事を想定した戦闘術を重視してたのもあるんだが…………まぁそれはそれとして」

言葉を切り、天井を見上げて口を開く。

「なぁルリさんよー?」

「んー?」

「俺見えてねえんだけどさー」

「んー」

「スカート捲れてるけど」

「死ね!」

容赦の無い踵落としが繰り出される。

トウマが転がって避ける。

ちなみに色は以下略。

「あのさ、トーマさ、一回死んでくれない?もしくは私に殺されてくれない?」

「だから見えてねえっつってんだろうが!」

完全に逃走準備が整っているトウマである。

「…………あの、トウマ様」

「ん?どうした?」

シルが申し訳なさそうに手を挙げた。

「あの、大変失礼ながら…………お腹が空きました」

同時にタイミングを見計らった様に音が鳴る。

シルは赤くなりつつ微妙に目をそらした。

そんなシルをまじまじと見ながらトウマが呟く。

「なぁルリさんよ」

「なんだいトーマさんよ」

「俺さぁ、今のシルを撮影して家宝にしたいとか思ったんだがこの感情は正常か?」

「正常だね。私もしたい」

即答だった。


閑話休題。


「ま、こんなもんかね。もう遅いし軽めでいいだろ」

三人の囲むテーブルには、ご飯に野菜炒めにみそ汁と、本人の言葉通り軽めの夕食が並べられていた。

「じゃいただきます」

遠慮など知らんとばかりにルリが食べ始める。

一応非難の目線を向けてからトウマも食べ始め、それを見てシルも食べ始めた。

「味は問題無いよな?」

「問題無しー」

「とても美味しいです」

「そりゃ何より」

淡々と食事は進む。

ちなみに食べる量はトウマが最も少ない。

これは日頃から食費を削減するために最小限の食事で済ませているからだ。

逆に最も多いのはルリ。

学園上位の彼女には学園から奨学金が入るため、金銭面で不自由しない。

「トーマおかわりー」

「もう無えよ!」

「えー、少ないよー」

「うるせえ黙れお前は取り敢えず遠慮ってもんを覚えろ!」

トウマは怒鳴りながら食器を片付ける。

シルはルリから食器を受け取って運ぶ。

ルリは怠惰の限りを尽くす。

「つかルリ、とっとと帰れ。いい加減遅い」

時刻は二十二時を過ぎたところ。女子高生が外出するには確かに少々遅い時間だ。

「いやー、さすがにこの時間に帰るのは怖いってー。泊めてよトーマ」

「アホかお前は。一応ここ男子の部屋だぞ。しかもお前がこの時間に出たところでなんの問題もねえだろうが」

「んー、デッドリーキラーとか?」

「アレはもう殺された」

「そうだっけ?」

「そうだよ早よ帰れ。外が危険とか以前にこの時間に異性の部屋に居る事に抵抗を覚えろ」

「これからはシルちゃんが同室だけどー?なに?いかがわしい感情が溢れ出るわけ?」

「アホかああああ!!?」

「じゃ、問題無いね。おやすみ」

ルリはそのままソファーで丸くなって寝てしまう。

規則正しい寝息が聞こえる。

「…………シル、片付けは明日でいい。もう寝よう疲れた精神的に」

「…………わかりました」

目が死んだトウマにシルが苦笑で答える。

「シルはそっちのベッド使ってくれ。おやすみ」

「えっ、ちょっ、トウマ様!トウマ様がベッドを使ってください。私は大丈夫ですから!」

「いいから使えー。マスター命令な」

「むぐ」

マスターとしての命令にはサーヴァントであるシルは従うしかない。

全身で不服ですオーラを発するシルを、しかしトウマはスルーして寝に入る。

シルは仕方なくベッドに入って布団をかぶる。

「…………トウマ様のバカ」

呟きは誰にも届かずに夜は更けていく。





学園の一室。

魔導学園理事長、幽楽(ゆうらく)カエデは月を見上げてグラスを煽る。

机の上には数枚の調査書。

笠木(かさぎ)トウマ、性別男、年齢十七、魔力特性は対生物特化、先祖に魔獣、五年前に祖父が魔獣化」

カエデはさらにグラスを煽る。

「妹と姉は魔獣化した祖父に殺害されて身寄りをなくして学園に、魔獣討滅小隊への加入を志望、志望動機は祖父の討滅」

すっとカエデは目を細める。

「祖父の名前は…………笠木ソウゲン」

笠木ソウゲン

現在確認されている魔獣で最も強力で、現状討滅不可能とされている人型魔獣。

西日本を一人でほぼ壊滅させた魔獣。

カエデがグラスを持ち上げ、空のグラスを机に置き、ボトルから注いでいく。

見上げた月は、僅かに赤い光を放つ。

カエデは仄かに嗤う。

「さてさて、いい加減時は満ちた。この時代を終わらせるのは君か、それとも君の中の獣かな?」

グラスを掲げ、月に透かす。

「…………さてと、今日もまたこの素晴らしき世界に、乾杯」

カエデは、グラスを煽る。

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