12，戦いの始まり
襲撃によって、試合は中止になった。
「おい、リョウ」
「やっと来たか。いつ来るかと楽しみにしてたんでね」
「うるせえよ。お前なら知ってんだろ？相手は誰だ」
「簡単に言ってくれるよなぁ」
「さっさと言え。でなきゃ殺す」
「それを人は脅迫と言う」
「死にたいようだ」
「待った待った待った！わかったから落ち着け！？」
魔力を溢れさせたトウマに慌ててリョウは話し始めた。
「あのヘリは東洞の第八研究所の物だ。相手と実行者、あとあいつが誘拐された先もそこだろうな」
「東洞ってあの東洞？」
「そーそー。武装型オートマキナの専門。サバイバー御用達の東洞グループだな」
「その東洞がなんでシルを狙う？」
「さすがにそれはわからん。お偉いさんの考えは俺ら庶民には理解出来ねえ事もあるし、一部の独断とかの可能性もある。安易に東洞の犯行と考えるのはよろしくねぇ」
「どっちにしてもその第八研究所を潰せばオーケーって事か？」
「まぁ少なくとも救出って点じゃその通りだな」
「了解だ。サンキューな」
踵を返して歩き出す。
「一応言っとくが、やるなら隠密厳守だぜ？独断云々は別としても東洞の研究所だ。何があるかわからん」
「ああ、わかってる」
歩みを向けたのは理事長室。
「一年E組、笠木トウマ。入室許可を求めます」
「許可しよう。入りたまえ」
理事長室の中央で立ち止まる。
「久しぶりだねトウマ。なにやら殴り込みにでも行きたそうな顔をしている」
「わかってんなら一々言うんじゃねえよ」
「一応言っとくが私は理事長だそ？口の利き方とか色々考えろよ？」
「っせえよ。来た理由もわかってんだろ」
「ふーむ、ま、良いけどね。使わない事を祈っておくよ」
「俺も使いたかねえよ。あくまで保険だ」
カエデは薄く嗤う。
「相手は東洞だよ？君は確かに強いが東洞の、しかも少なくとも幹部クラスにコレ無しで無事でいられるとは思わないな。原液のナイトメアはともかく魔力解放用にサファイアは使わざるを得ないだろうな」
トウマは苦々しい顔をして、差し出された数本のアンプルを受け取った。
「確かに笠木ソウゲンと同じ力を使うのは嫌かも知れないけどね。それは君の力で、君に必要な力だ。まぁ意地と仲間、どちらを取るかは君次第だけどね」
「…………っせえよ」
呟いて部屋を出る。
アンプルをホルスターにしまって校門を出る。
数メートル歩いて、振り返る。
「…………なんのつもりだ？」
「ん？いや普通私も行くでしょ。あの時私も居たし。トーマだけだとサボるでしょ？」
「ふざけてんの？」
「んな訳ないでしょ。一応トーマよりは戦力になると思うけど？」
「言ってろクソが」
再び歩き出す。
視界から消える寸前のルリの苦笑は、どこか悲しそうだった。
東洞グループ第八研究所。
その最深部にある実験場でシルは鎖につながれていた。
「…………ここは」
「どうもおはよう、シルヴァリエDK224。ここはどこか、と言う質問には残念ながら答えられないがね」
機嫌がよさそうな目の前の男を冷たく睨む。
「おおっと、これはこれは。名乗るのを忘れていた……」
「あなたの名前を知る必要性は無いので可及的速やかに解放してください」
「ハッ、一応聞いておきたまえよ。冥土の土産というものだ」
「…………」
男は黙り込んだシルを満足気に眺めた。
「私は東洞グループ所属、伊竜スミヤだ。お前を連れてくるよう指示したのも私だ」
「残念ながら私はマスターの魔力に合わせて調整されています。あなたが使う事はできません」
「ハハハハハ！お前を使う！？なにを言ってるんだシルヴァリエDK224！お前なんか使う訳ないだろう！」
「ならば何のために私を攫ったのですか？」
「ん？何って…………迂回マワルについて洗いざらい喋ってもらって解剖するために決まってるだろう？」
何を今更と言わんばかりの顔で返したスミヤをシルは冷たく見返す。
「私をバラす？あなたのような三流マスターではただ私が死んで終わりですが？」
「…………口の利き方がなってないようだな」
スミヤは立ち上がって隣の机の上から棒状のものを持ち上げた。
「聞きたい事も多々ある。時間もたっぷりある事だしまぁ、尋問でもするかね」
「…………拷問、の間違いでは？」
「いつまでその減らず口が続くか見物だな」
そう応えたスミヤはおもむろにシルの腹部に棒を押し当て、手元のスイッチを動かした。
「ッあぐ！！？」
「中々効くだろう？死にも気絶もしない電圧に正確に調節されているからな」
「…………こんな、事で、どうにかなるとでも？」
「どうにかするのさ。どうにかなるまでね」
言葉と共に棒が押し当てられ、電撃が身を貫く。
シルは奥歯を噛み締めて、繰り返される電撃にどうにか耐えながら思考する。
（トウマ様なら私を探すはず……あの情報屋に聞けばここの事もわかるでしょう）
飛びそうになる意識を繋ぎ止める。
（私を救出に来るとすれば、トウマ様ならすぐに出る…………ならあと数時間といったところですか）
愉悦の表情でシルを痛ぶり続けるスミヤを、痛みに耐えながらシルは嗤う。
「…………何を笑っている？」
「あと数時間で、マスター、達が、ここへ来る……でしょう。フフッ、そうなればあなたも終わりですね」
「ハッ、魔導学園は動かんよ。来るとしても所詮学生、相手にならん。それにお前のマスター、笠木トウマだったか？そいつはあの戦闘で胴体を大剣で貫かれて死んだそうだ。望みは無い」
「ハハハハハ…………大剣で貫かれて死んだ？あり得ませんね。トウマ様はその程度じゃ死なない……あの人の強さをあなたは知らない」
「戯言をほざくのもほどほどにしておけ」
「おや、おきたまえ、ではないのですね。演技がバレてますよド三流？」
「…………小娘が」
静かな怒りを湛えたスミヤによって、シルへの拷問は続く。
