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11,人と人形

「随分と荒療治をするものだ」

「あ、マワル先生。さすがにアレはえげつないですよねぇ」

深紅のツインテールを揺らしながら歩いて来たマワルにアリーナから目を離さないままルリが応える。

「まぁ確かに目的の達成という点では最速かも知れんがな」

「というかマワル先生も十分えげつないと思うのは私だけですか」

「いい加減人間になって欲しいという事だ。まぁくだらん作り手の親心と言うやつだな」

苦笑しながらマワルが答える。

「あいつはもう笠木の策に嵌ってる。あとは時間の問題だ」

「まー、アレはさすがにビビっても仕方ないと思いますけどね」

シルの動きには先ほどまでのキレは無い。

所々に怯えたような躊躇いが見える。

「恐怖ってのは生存本能に反するモノだからな…………本心が出やすいってのはあるが、あいつにあそこまでハッキリと恐怖を植え付けるとはね」

「難しいでしょうねー。私だとその前に殺しかねませんし」

「笠木は魔力の使い方が上手い。アレだけドンパチやって負傷させないのはさすがとしか言えないな」

「マワル先生でも無理ですかー?」

再び苦笑しながらマワルは答える。

「もし私があいつと同じ事をするなら一撃で瀕死にして話し合いだ」

「デスヨネー」

呆れたように、ルリが返した。





(なんなんですかこの人は!?)

トウマを相手にシルヴァリエDK224は攻めあぐねいていた。

振り下ろされる拳から魔力を消して魔力壁を展開する。

加速する拳を、術式で後方へ加速して躱す。

魔力壁を砕いた直後を狙うために一歩踏み込んだ時、脳裏に浮かんだのは先刻のトウマの表情。

嘲るように、憐れむように、弱者で遊ぶ暴君のように自分を見下すその表情は、次の一歩を後ずさりに変える。

「なんなんですか!」

腕が修復され、地面を掴み、振り回される脚を避けきれずにガード、飛ばされる。

「なんなんですかあなたは!?」

飛ばされた勢いを殺した瞬間に腹部に添えられる掌。

放たれた魔力で吹き飛び、再び壁に罅を入れる。

「なんだって、そりゃ笠木トウマっつーマスターだよ。わかるだろ?」

ヘラヘラと答えるトウマを見て、恐怖の奥から湧き起こるのは絶望。

(勝てない)

確信に近いものを感じた。

(この人に、私は勝てない。殺される)

そして気付く。

(…………殺される?)

死の恐怖は、爆発的に心を支配する。

(死にたくない…………私は死にたくない)

埋め尽くされる。

「あああああああああ!!」

トウマへ突っ込む。

「《龍血よ》!!」

ジークフリートを生成、抜き打ちの形で左右から斬りつける。

トウマの表情は、変わらない。

真紅の刃は、動かないトウマを斬り裂き、


なんの抵抗も無く通過した。


「ッ!?」

動きが止まる。

致命的な隙。

「いい加減止まれよ、な?」

声は頭上から。

同時に強烈な重力がシルヴァリエDK224を地面に縫い付ける。

重力操作術式・ヘルグラビティ

重力操作術式を複数箇所に展開し、特定範囲の重力を増大させる術式。

「いつの間に、偽装術式による幻影なんてものを……」

「いくらでも隙はあった。精神的にブレててくれたおかげで使いやすかったよ」

仰向けのシルヴァリエDK224を見下ろすトウマはナイフを生成し、構える。

「んじゃま宣言通り、壊すとしよう」

ナイフを引く。

シルヴァリエDK224はそっと目を閉じた。

(死ぬ、か…………嫌だな)

浮かんだトウマの顔は、優しく笑っていた。

(まぁ、トウマ様を殺さずに済んで良かった。としておきましょうか)

そっと終わりを待つ。

(はぁ…………死にたく、なかったな…………まだトウマ様と一緒に居たかったのに)

待つ。

(仕方ない、かな…………)

待──


「────おい」


瞼が開かれる。

閉じようとしても、閉じない。

「まさか安らかに死ねるとでも思ってるのか?」

嘲るトウマの顔が、目の前に。

「言っただろ?死の恐怖の中で、無惨に死ねって」

瞼は魔力で強引に開かれている。

「シルヴァリエDK224、お前はこれから、俺に殺される。指を寸刻みに切られ、腕を切られ、脚を切られ、皮を剥がれ肉を抉られ、骨を折られて内臓を抉られて目を抉られ耳を切られ頬を削がれ滅多刺しにされて……死ぬ」


恐怖。


「安心しろ。ショック死も失血死もしないように生かしてやる。俺の考えつく痛みの全てを与えるまでしっかり生かしてやる。存分に苦しめよ?」


恐怖。


「…………ぁ、う、いや……いや」

「ああ?なんか言ったか?シルヴァリエDK224?」


恐怖。


「いや…………いやだ……私は、まだ」


恐怖。


「もういいだろ?んじゃま、さよーならっと」

再び引かれるナイフ。

「嫌だ!私は!私はまだ!」

振り下ろされるナイフ。


「私はまだ死にたくない!!」


開かれた瞳の数ミリ手前。

ナイフの切っ先は停止した。

「……やっとかよめんどくせえ。もうちょい早くできねえかな?」

「…………ふへぇ?」

緊張で変な声が出た。

「その感情忘れるなよ?またこんな事やる気は無いからな」

ナイフを消す。

「お前を精神的に人間にする。それが迂回先生の目的だよ…………そうだろ?」

「その通りだ。良くやってくれた」

アリーナの出入り口からマワルが答える。

「私を、人間に?」

「精神的にな。もう少し感情を優先しろって事だ」

「でも私はサーヴァントで」

「お前の言うサーヴァントとやらはシルヴァリエDK224だろ?それ俺のサーヴァントじゃないから」

「いえ、でも」

「俺のサーヴァントはシルで、シルヴァリエDK224じゃない。わかったか、”シル”?」

息を呑む。

「はい…………度重なる無礼、誠に申し訳ありませんでした」

「ああ、気にすんな」

軽く頭を撫でる。

「んーリア爆。うん、取り敢えず爆ぜよう」

「ちょっと黙るって事を覚えようかルリさんよ?」

ヘラヘラと入って来たルリにトウマがうんざりと応える。

「でさ、このあと何するかわかるよね?」

「あー、んー、何だろうな」

シルに普通の魔力量で治癒術式を施しながらとぼける。

「まぁ思い出せないならサクッとぶっ殺されるってことで一つ」

「サクッとじゃねえよクソが…………シル、下がってろ」

「いえ、私も参加します」

「やった本人の俺が言うのもアレだが、ボコられてすぐでマトモに戦闘出来る訳ねえだろ。ましてや相手がルリじゃ即殺されるわ」

「…………お気を付けて」

「あいあいっと」

心配そうにシルが壁際まで下がったのを確認して構える。

「さすがに本気出してよ?」

「まぁほどほどにな」

そうして飛び出した二人の間。

唐突に投げ込まれたのは、手榴弾。

トウマは魔力壁を展開し、ルリは複写した斬撃を前面に展開する。

しかし溢れたのは、煙。

「ルリ、飛ばせ!」

「了解!」

太刀が振られ、巻き起こった風が煙を吹き飛ばす。

同時に、

「──がッ!?」

「これも仕事でね、すまんね嬢ちゃん」

トウマの背後で腹部へ拳を叩き込まれたシルが崩れ落ちる。

そのまま男はシルを担ぎ上げ、偽装術式でアリーナ上空に隠れていた無音ヘリに跳躍する。

「待てクソが!」

即座に反応して跳躍したトウマの胸から、巨大な刃が生える。

「ごめんね坊や。ちょっと死んでてちょうだい」

大剣が振られ、トウマが墜落する。

「トーマッ!?しっかりしてトーマ!」

「うるせえ、よ。心臓には入ってない」

血を吐きながら体を起こして治癒術式を使う。

ヘリは既にアリーナから遠ざかっていた。

鮮やかと言えるほどにあっさりとした完璧な襲撃。

「なんだってんだクソが…………ただで済むと思うなよ」

トウマの目に、怒りが宿る。

「てめえら全員、ぶっ殺す」

そう呟いたトウマを、悲しそうな目で、ルリが見つめていた。

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