1,無能天才
どうもおはようございます、またはこんにちは、はたまたこんばんは。
詩期ノ木と申します。
この話、魔術と人形と無能天才は私が高校へ通学する電車の中で、高校の休み時間で、寝る前のベッドでフラッと書いた作品です。
まぁ、単純に言えば厨二妄想をどうにかこうにかまとめたものですハイ。
そのため、とは言いませんが話グダグダキャラグラグラはご勘弁ください。
そんな作品ですがどうぞよろしくお願いします。
体術評価SS
魔術知識評価A
保有魔力量評価SS
実戦評価F
十七歳
性別男
平均的な身長、短めに切られた黒髪と鋭い、しかし気怠げな目つき。
笠木トウマは今日も実技授業を見学していた。
広い円形の実技場では多くの生徒が様々な方法でそれぞれの腕を磨いていた。
魔力の制御の練習をする者。
オートマキナを操作する者。
数人の生徒同士で模擬戦をする者。
トウマはそれらを無感動な、微かな羨みを持った目で見ていた。
「トーマまたサボり?それなら感心しない」
そのトウマの後ろから声が掛けられた。
トウマは寝転ぶ要領で後ろに目を向けた。
そんなトウマを見下ろしているのは、美しい黒髪を流し、腰に幅広の太刀を吊った女子生徒。
「オートマキナ使えねえのに実技授業なんか出来ねえだろ。つかルリこそ俺みたいな落ちこぼれと話してる時点でサボりだろうが」
そう言われたルリは意地悪く笑いながら言う。
「学年二位のマスターなんて誰も相手したくないでしょ?」
灯当ルリ。本人の言葉通りこの学年二位の実力を持つ強力なマスターで、武装型オートマキナをサーヴァントとして使っている。
「だからっつって授業サボる言い訳にはならんと思うがな」
「いいんだよ実質自習みたいなものだし。模擬戦やるにしても私の相手になる人居ないし。むしろトーマぐらいのが居ないのが不思議だよね」
「いや実戦評価Fのやつに何を言うか?」
「実戦評価なんて評価であって実力じゃ
ないでしょう」
「そりゃま確かにそうだがな……」
トウマは実戦評価は最低ランクのF、対してルリは最高ランクのSS。
しかしそのランク差がありながら、入学直後のランク分けのための試験。その中の模擬戦で、トウマはルリに惜敗という実績を収めている。
その原因は圧倒的な魔力保有量の差。
トウマ魔力保有量の評価は最高ランクのSS。その中でも異常な程多い。ルリもランクSSだが、それでもトウマの保有量の十分の一以下。
それ故の暴力的な力押しが可能だったためである。
「私の纏った魔力強制的に吹っ飛ばしたり斬撃ほぼ全部防いだり最後には魔力弾とか無茶苦茶にも程があるモノ撃ってきたくせに実戦評価Fとか言われてもね」
「んなこと言われてもな……オートマキナに使えねえ以上どうにかして使うとなりゃあ量に任せて相手の魔力飛ばすか無理矢理圧縮して物質化させるぐらいしかないからな」
基本的に自分の魔力は他人の魔力に作用することはできず、魔力その物の物理的な作用はほとんどできないが、魔力量に差がある場合はより強力な魔力塊をぶつけることで相手の魔力を吹き飛ばすことができるし、超高密度に圧縮すれば物質化させることもできる。もちろん吹き飛ばされた後に再度纏えば元通りだし、物質化するまで圧縮するにも膨大な量の魔力が必要になる。
そこまで思考を回したところでいい加減気付けよとトウマが口を開く。
「…………ところでルリさんや」
「ん?なに?」
見下ろしたまま首を傾げたルリにトウマは言った。
「この体勢と位置関係だとな、お前のパンツ丸見えなんだが」
ちなみに黒だった。
その言葉にルリはスカートを押さえ、容赦無くトウマの顔を踏みにかかる。
「この変態がッ!!少しは慎め眼を閉じろもっと早く言いなさいよッ!!」
言いながら何度もトウマの顔に足を振り下ろしているが、その靴底はトウマの顔の数センチ手前で何かにぶつかったように止まる。
「アホかお前は。見せたのもお前だし、気付かないのもお前だ」
「そういう問題じゃないのよバカッ!!」
顔を赤く染めて軽く涙目になりながらひたすら踏んでくるルリの足を、眼前に展開した魔力壁で防ぎながらトウマはため息をついて目を閉じた。
「いい加減に収まれよ足壊すぞ?」
「せめて反省しなさいよ!?」
「だからお前のせいだって言っただろ?」
「見たことには変わりないでしょ!?」
「責任はお前だと言ってんだどべらばっ!?」
反省する気の全く無いトウマの側頭部に怒りに満ちたルリの蹴りが叩き込まれた。
「てめっ、首イカレるだろうが!」
「頭イカれてんだから問題無いでしょ!」
「イカれてねえよ俺ほど常識に満ちた人間なかなか居ないぞ?」
「あんたほど諦める事が正解に思える人間はなかなか居ない……」
ルリの呟きは虚しく空気に溶けた。
「というか暇なら付き合ってよ」
「はぁ?」
「いや勘違いしないでね。手合わせしようってだけだから。あとコレはツンデレとかフリとかじゃないから」
「そこじゃねえよ?つかお前にそういう方面期待してねえよ?」
「ちょっと死んでみたらどうかな?」
「めんどくさ過ぎるだろオイ」
言葉通り面倒だと思っていることを隠しもせずに立ち上がる。
「で?お前と手合わせだっけ?マジで言ってる?」
「もちろん」
「断る権利は?」
「無いよ?」
「不思議そうに首を傾げるなクソが…………ったくわかったよ。授業終わるまでだからな?」
「いえーい!」
「聞いてんのか!」
「聞いてるよー。早くしてよ斬るよ?」
「理不尽過ぎる!」
足取り軽く実技場の中央に歩いて行くルリを怠そうに追いかける。
そこにいた生徒は既に端の方に退いて好奇の目を向けている。
「縛りは?」
「んー、じゃあ一般人縛りで。私も『解放』はしないから」
「俺の長所ゼロじゃねえか」
「体術とか?」
「お前と大して変わらんだろうが!?」
「いいから早く」
左腰に吊った太刀を右手で握る。
ごく普通の居合の構え。
「つってもどうするかね」
もちろん一般人というのは一般のマスターという意味で魔力を使う前提ではあるのだが、それではトウマの魔力量は全く活かせない。
「じゃあいくよー」
軽い声と共にルリが一歩踏み出す。
足元に、魔法陣。
一歩でトウマの眼前に迫り、手本のような居合を繰り出す。
対してトウマは音速を超える刀身の側面を殴りながらしゃがんで軌道を頭上へ逸らす。
立ち上がる動作のままルリの顎を狙って繰り出した掌底は身体を反らして躱される。
お返しとばかりに顎を狙う爪先をバックステップで躱す。
「一般のマスターは居合を殴って逸らしたりしない」
「一般のマスターはそれで斬られて死んでるが?」
「いいんじゃない?」
「死ねよ」
軽口を叩いて睨み合う。
息を吐いてトウマが一歩踏み出した瞬間、ルリの眼前に魔法陣が五つ浮かんだ。
「ふざんけなオイ!?」
直感が死を告げて、反射的に魔力を起こす。
「ちょっ!トウマ縛り!!」
ルリの言葉は既に遅い。
トウマの膨大な魔力が右腕を覆って振り下ろされている。
もちろんそんな大技がルリに当たるわけもなく、誰もいない地面を殴りつけて盛大に陥没させた。
「双方止め!施設を壊す気か!」
即座に担当教師によって待ったがかかり、トウマとルリは叱責をもらう。
「あー…………すまん」
「だから縛りつけたのに…………アホ?」
「これに関しちゃ否定できんな」
二人共にため息をついて周囲の視線をやり過ごす。
実技場の入口付近で、担当教師が集合をかけていた。
それに従って、二人は他の生徒に混ざって集まり、担当教師によって授業が終えられて解散となる。
トウマはふらりと教室へと歩き出した。
しかしすぐに目的地を変更された。
『一年E組笠木トウマ、一年E組笠木トウマ、至急第四実験室に来るように。繰り返す。笠木トウマ、至急第四実験室に来るように』
面倒臭そうな表情をした後、トウマは歩き出した。
「ついにお呼び出しだねぇ。どんな罰を食らう事やら」
当然のようにトウマの隣をルリが歩く。
「実験室に呼び出されたんだからそれはねえだろ。つか付いて来んな呼ばれたのは俺だけだ」
その言葉にルリは取り合わない。
「いいでしょー。細かい事気にすると禿げるよ?」
「誰が禿げるかッ!!」
そんな調子で結局ルリを離せないまま実験室に着いた。
「入りますよぉっと」
「普通に礼儀無いねトーマ………失礼します」
トウマが礼儀の欠片も無い挨拶で入った後からルリがため息をつきながら入る。
「…………呼んだのは笠木トウマ一人なんだけどなぁ?つまるところ灯当ルリ、お前は呼んでない」
「付き添いですよー。トーマってばサボり常習犯ですからねぇ」
「サボりじゃねえっつってんだろ」
呆れた様子でトウマを待っていたのはこの学園の理事長補佐であり、教師でもある迂回マワル。
深紅の髪をツインテールに結んでいるので、一五○センチも無いだろう身長と相まって一見すれば幼女に見れなくもないが、実年齢は二十四歳の上に学園伝統の新入生歓迎模擬戦(という名目の教師と生徒の実力差の誇示)で学年主席の生徒と二位のルリを相手に三分ジャストで余裕の勝利を収める圧倒的な強さを持つマスターである。
「クソどもが…………まあいいだろう。笠木、お前はオートマキナだの武器だのをサーヴァント化出来ないんだったな?」
オートマキナに魔力を持つ主人が魔力を送ることでそのオートマキナを自身の従者として強化することが出来る。
また、ある程度熟練のマスターや、センスのあるマスターであれば、感覚の共有化の難しい事からサーヴァント化の難しい、銃や刀剣などの通常武器から機械仕掛けの機構武器などもサーヴァント化する事が出来る。
しかしトウマは持っている膨大な魔力をいくらオートマキナに送ってもサーヴァント化させる事が出来なかった。
「ええ、まあ。俺はどんだけ魔力送り込もうとサーヴァント化させた事はないですよ」
「じゃあ人形じゃなくて人間、引いて言えばイキモノをサーヴァント化させようとした事はあるか?」
その言葉にトウマもルリも怪訝な顔をした。
「イキモノをサーヴァント化ってそもそも普通のマスターが思いつきますかね?つかそもそも生き物は意志力が邪魔してサーヴァント化出来ませんし……思いついたとして実行しますかね?イカれてんじゃないですかそいつ」
「もし人間をサーヴァント化して戦闘に使ったりしたら奴隷とかのレベルじゃないですしね。それが出来たら秩序なんてあったものじゃ無いでしょう?」
ただし二人とも曲がっていた。
その答えにマワルは頭痛でも感じるように頭を振った。
「おまえらなぁ、あんまりあたしを舐めてるとぶっ殺す……いやぶっ潰すぞ?」
「いや大して意味変わってないですし。むしろ今最も危険なのは迂回先生です肯定プリーズ」
「お前は取り敢えず黙れ笠木トウマ。ともかくだ。お前はイキモノをサーヴァント化させた事はない。これは確かだな?」
「はあ、まあ、そうですね。記憶上、多分、意図的には」
その言葉に満足気な顔をしてマワルは端末を操作する。
「なら良かった。お前には今からちょいとサーヴァント化の実験に付き合ってもらう。少し待ってろ」
そうして実験室に持ち込まれたのは鈍い銀色の輝きを持つ棺。
その棺にマワルが手を置いて魔力を送り込む。
『魔力反応:迂回マワル。管理者権限の所持を確認。命令を受理。実行。棺をアンロックします』
無機質な電子音声と共に棺のロックが解除され、蓋が開く。
『生命凍結処置を停止。再起動処理実行。識別名【シルヴァリエDK224】を起動します』
棺の中に入っていたのは一人の少女。
恐ろしく整った顔立ちをした、トウマ達と同じ年齢くらいの少女が眠っていた。
「起きろ【シルヴァリエDK224】。貴様のマスターを見つけた」
そのマワルの言葉に少女はゆっくりと目を開け、体を起こした。
「どちらが…………どちらが私のマスターですか?」
【シルヴァリエDK224】と呼ばれた少女は澄んだ声で問い掛けた。
「ハッ、分かりきったことを聞くなよ。魔力の質を視れば分かるだろう?」
「…………そうですね」
少女は立ち上がるとトウマの方へと歩き、目の前で頭を垂れる。
「あなたが私のマスターであると認識します。間違いないですか?」
トウマはマワルに視線を送り、頷いたのを確認すると答えた。
「あ、あぁ、えっと、らしいな。名前は笠木トウマ。その、よろしく」
そのやり取りを見てルリがこぼす。
「この子は…………オートマキナ、じゃないですよね?余りにもヒトに似過ぎてると思うんですけど」
「ふむ。いい質問だな」
そう答えたマワルは棺と少女に目を向けながら話した。
「そいつはオートマキナじゃなくヒトだ。より正確にはホムンクルスと言った方が正しいだろう。サーヴァント化させる際に魔力に呑まれないように調整してあるからな」
「あー、つまりこの子を俺に使えと?」
「その通りだ」
「使えるかどうかもわからんのに?」
「お前の残留魔力を確認したら微生物やらなんやらが異常に活性化していた。お前の魔力特性は『対生物特化』だろ?私も生物に対しての作用が強くなる程度だと思ってたんだがな。おそらく意志力の抵抗か矛盾やらズレをある程度無視できるんだろう」
そう言われたトウマは少女を見て、見ようとして微妙に目を逸らして言った。
「えっと、それじゃそういう事でこれからよろしくな。シルヴァリ……長いな。シルヴィア…………シルで良いか?」
それをきいてシルは少し笑った。
「好きに呼んでください。私はトウマ様のサーヴァントですから」
それを聞いてトウマは我慢の限界を迎えた。
「あーっと、それじゃ命令……じゃなくてお願い一つ良いか?」
「お願い……ですか?大丈夫ですよ」
「えっと、その、なにか服を……着てくれないか?主に俺の理性的な問題でヤバい」
それを聞いたシルは一瞬固まり、下へ目線を落とし、赤く染まり、
「ぁうぅ…………」
体を抱えてぺたんと座り込んだ。