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C6-11 お屋敷の日常


 喋らせてみたら妙にキャラが立って名前を付けようか悩んだモブ娘ちゃん視点。

 割とあるあるだと思うのですよ。


 ───私は、この商業都市の名士『ローズ家』に仕える一介のメイドでございます。


 未だ雇われて日の浅い身ではありますが、悪くはない評価を頂いていると自負しております。

 そんな私の名前は……あ、誰も興味ないですよね。はい。



「つまり、最近身の回りで起きる奇妙な事象を『悪霊の仕業』と判断し、妙な噂にならないように誰にも告げず館を抜け出し、密かに調べていた裏路地の『お祓い屋』に行ってきた、と……?」


「え、ええ……そうなるわね!」


 そんな私の前には今、朝から姿が見えず館を大騒ぎさせた主犯にして当主様のご息女であられるミコルお嬢様が、私たちの直接の上司にあたるメイド長様の前で正座させられておられます。


 ……お嬢様にこの扱いは良いのでしょうか、とも初めは思いましたが、この屋敷ではそこそこの頻度で見かける光景ですので、今では特に気にすることなく仕事に手を動かしている私です。

 お掃除お掃除……あ、ここの壁紙、シミができてますね。シミ抜きシミ抜き……



「それで途中で破落戸に襲われていたところを、たまたま通りがかった冒険者に救っていただき、また怪しい店の詐欺に掛かりそうになったところを引き留めていただいた、と……」

「……ちゃんと表通りに出たところで報酬と口止め料は渡しておいたわよ!」


「それは、まあ、大事ですが。気にしていただきたいのは、そういうことではなく……」


 横目に、頭が痛そうに苦悩するメイド長様の姿が見えます。

 細かなやらかしまで馬k……とても正直に申告されるミコル様のお心根は個人的に大変好ましく思っていたりするのですが、教育係でもあるメイド長様にとっては頭痛の種なのでしょうね。



「…………なんという、ことを。ご無事で戻ってこられたから良いですが、そんな場所をお一人で出歩いて万が一の事があったらどうなさるおつもりだったのですか……!?」


「ひ、一人じゃなかったわよ? ちゃんとルーシアが一緒に……あら? ルーシア?」



 …………。


 ミコル様の口から、()()その名前が出てきました。

 今回、自ら『お祓い屋』に赴いたそうですが、《《そちらが好転したわけではなかった》》ようです。



「……お嬢様。ですからルーシアは()()()()───」

「シッ! ルーシアなら今日もお嬢様の自室を担当させております。ですから、お嬢様はお一人で外出されたのですよ」

「あら……? そう、だった……わね……?」


 ……堪らず、()()()()()()()()()()私を、メイド長様が鋭く制止なさいました。

 続いて、取り繕われたメイド長の優しい嘘に、首を傾げながらも納得されてしまうお嬢様の姿も見えます。……それでいいのでしょうか。色々な意味で。



「ええ、そうだったのです。……彼女もお嬢様の姿が見えず、非常に心配しておりましたから……早く顔を見せて安心させてあげてくださいませ」

「…………え。じゃあ、お説教はもう終わり……?」


「……大変、大変遺憾ながら。物足りないと仰るなら延長も考えさせていただきますが───」

「ルーシアぁー! 今行くわよぉー!!」


「……はぁ」


 淑女らしさを潔く放り出されたお嬢様の背中に、再び深い溜め息を漏らすメイド長です。

 ……思うところは様々ありますが、一介のメイドの身でこれ以上の深入りは褒められたことではありませんね。さぁ、お仕事お仕事───



「そこのあなた。自室でのお嬢様の様子を見守りなさい」

「…………えっ。私ですか?」


 気にせず掃除に戻ろうとしたところで、メイド長に呼び止められてしまいました。どうして。

 自室での様子と言われても……いつも通り、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()姿を見ることになるだけなのでは……あ、それを見守りなさいと。そして今朝みたいな行動を突発的に始めやしないか見張っていろと。ですよねー。



「ただし決して、ルーシアに関するミコル様のお言葉を否定しないように」

「え、えぇ……? ですが、お嬢様の為にも、ご指摘した方がいいのでは……? こちらの言葉が届かないわけではないのですし……」


「……いいえ。今は静観を選ぶようにとの『ご指示』です」

「…………」


 私にそう告げるメイド長にも、正解が分からないという迷いが表情に滲み出ておられます。

 ですが『ご指示』……上司の上司のご意向となれば私に否やを言う権利などありません。黙って首を縦に振るに留めましょう。



「……おそらくミコル様も、既にルーシアがこの世のものではないことには気付いていらっしゃるのでしょう。お心が受け入れるまでに時間がかかっているだけで……自ら『お祓い』という言葉に近付かれたのがその証左だと、そう思いたいですね……」

「……悪霊、ですもんね。確かに最近、屋敷の中でちょっとした変事が起きていますけど……」



「ああ、あれは違います。少なくとも最近の話ではありません」

「えっ」



「厨房につまみ食いに入ったお嬢様がお皿を割ったり、そこへ向かう途中で花瓶を割ったり……といった、()()()()()を悪霊やら動物やら精霊やらのせいにするのは昔からです」

「えぇ……?」


 遠い目のメイド長から凄い事を言われました。それ小っちゃい子が悪戯した時にやるやつ……。

 ついさっきまでこの胸にあった、正直過ぎるお嬢様への私の感心を返してください。



「…………お嬢様のそれらを逐一報告してくれたのも、ルーシアだったのですけどね」

「あ……」


 ……続いた言葉に雰囲気が一転しました。そっか、メイド長にとっても……。

 お嬢様がその目に映しておられる『ルーシア』を否定したくないのは同じなのかもしれません。



「……婚約者のメルクリオ様も、お嬢様のお心のために『ブレイハート家』に伝わる装具や付近のダンジョンから見つかった魔道具を集めてくださっていますが、今のところ効果の程は不明です。少しでもお嬢様のお慰めになっていれば良いのですけど……」

「傍目には無邪気に喜んでらっしゃいますけどね。わりと破れ鍋に綴じ蓋というか……ごほん」


「何か言いましたか?」

「いえ、何でもありません」


 個人的、あくまで個人的にですが、だいぶアレな殿方な気がするんです。メルクリオ様。

 だってあの方がお嬢様を見るときの眼って情熱的というより、むしろ束縛……げふんげふん。


 メイド長も実は気付いてたり…………ふわふわしてるお嬢様にはあれぐらいの方が丁度良い?

 あっはい。私は何も見ておりません。




        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ───ルーシア、という名の元同僚について私が知ることは多くはありません。


 齢の近さもあってか、お嬢様が特に気を許していた相手であること。

 よく機転が利き、気立ても良く、仕事ぶりにも卒のない人材であったこと。

 あとは……幼い頃は外出するたびに『悪魔の欠片』を拾ってくる悪癖……という程でもない癖があったらしいことぐらいでしょうか。


 お揃いの首飾りとして渡された手作りのそれをお嬢様が気に入ってしまい、外していただくのに苦労したと、メイド長がお酒に酔ったときに愚痴として溢していました。

 ……無理に外させる必要も無かったのではと思うのですけどね。見た目はただの黒い石ですし。


 子供の装飾品としては微笑ましい限りではと……まあ、家格の高い所では色々あるのでしょう。

 今はお嬢様の自室にて頑丈な箱に入れて大切に保管されているそうですし。



「───それは分かってるわ。でもどうするべきなのかしら……」


「───そうねえ……。でもこういう考えもできない?」


「───うう、それはその通りなのだけど……」



 …………はい。そろそろ目の前の現実を直視しましょう。なかなかに辛いですが。


 延々と虚空に話しかけるお嬢様の中では、会話が成立しているのでしょう。きっと。おそらく。

 しかしそれをこうして黙って見守っているのは、思ってた以上に精神にきます。お嬢様がなまじ平然としておられる分、自分の正気が疑わしくなってきてしまうんですよね。


 ……居ないよね? 聴こえてないよね? あれ、これ見えてない私がおかしい? みたいな。


 今日みたいな事があった以上、必要な役目なのは分かりますけど……今日が終わったら交代制をメイド長に進言しましょう。そうしましょう。



「ふう……喉が乾いちゃったわね。ルーシア、お茶を淹れてもらえる? ───ええ、お願いね」



 …………来ました。

 お嬢様の『お茶を淹れて』コールです。


 ここからが、本当に、見ていて辛いんですよね……。




「…………ヲ゛」




 椅子に座ったお嬢様が一度目を閉じて───いやに機敏な動きで立ち上がります。

 たまになんか不気味な声も出ます。今日は出ました。


 そのまま備えてあるティーセットへと向かって……淹れ始めるんですよね。ご自分で、お茶を。


 生前のルーシアが同じ道具を使って同じように対応していたそうですから、それを見様見真似で再現していらっしゃるんでしょうね……ああ、本当に、色々な意味で見ていてお労しいです。

 かといって止めに入ったら何が起きるか分かりませんし……恐ろしくて。



「───ああ、ありがとう、ルーシア。……うん、いつも通り美味しいわ」



 出来上がったお茶を机に置き、椅子に座りなおして。

 そこからはもう、普段のお嬢様なのです。うん、逆に怖い。


 お茶を淹れている間の記憶はどうなっているんでしょうか。……いえ聞けませんけど。怖くて。



「ふあ……ん───そうねえ。今朝は早起きだったし、仮眠をとるのも───分かってるわよ」



 ……相変わらずどういう会話がされているかは分かりませんが、一度お休みになるみたいです。

 良かった。眠っている間なら何かが起こる余地もありません。目を離しても大丈夫でしょう。


 一応、その旨を一声伝えて───お嬢様からは何ということもない返事をいただきました───部屋を下がらせていただきます。……お嬢様の中ではルーシアはどうしてるんでしょうね? まだ部屋にいるのか、それとも私と一緒に下がったことになってるのか……ちょっと背筋が寒い気が。


 …………メイド長に交代制を提言しに行きましょう。

 二時間……いや、一時間ぐらいでローテーションが良いと思います。早めに身体を動かす仕事をしていないと正気がもちませんよ。ええ。









「―――死人は黙ってあの世に帰れ。この女は、俺の物だ」













《ねぇねぇ、この街の近くにダンジョンあるらしいですわぞ?》

「まだ話聞く前ですけど絶対に要点はそこじゃなかったと思うんですよ」



 壁に耳あり障子にレインさん。


 実は未だに使ってなかったテンプレ第n項、ダンジョン設定。

 本編に絡んでくるのはもう少し先です。

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