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C6-9 憑きもの


 前書き後書きに何か書かないと死んじゃう症候群な作者です。

 基本はハーメルン掲載時と同じ文にしているのですが投稿日時に差があるため、近況報告的なものを書いていた回は代替に苦慮していたり。


「―――い、嫌っ! 近寄らないでくださいましっ!?」


 薄暗い路地の中に、絹を裂くような金切り声が響いた。



 それは、とある山間部に栄えた商業都市。複雑に入り組んだ路地の奥。

 そこにあったのは、相応の治安が保たれた表通りならば形になることはなかっただろう、麗しき少女の身を襲った危機の縮図。



「おいおい、そんなに毛嫌いしなくったっていいだろ? ちょいとそのお綺麗なお召し物を恵んでほしいって言っただけじゃあねえか」


 震えて拒絶する少女に対し、下卑た笑いと共に宣うのは、実に奔放な無精髭をたくわえた大男。

 行き止まりを背にした相手に得意気に迫るその姿は、まさしく絵に描いたような悪漢のそれで。



「それによお……わざわざ、こんな人目につかない場所を選んでフラフラしてたのはそっちだろ? むしろ何かしら期待してたんじゃねえのか?」

「な……っ!? そ、そのような辱めをうける謂れはありませんわっ!」


 悪意満面に勘ぐるような男の言い分に、少女の表情が屈辱に歪んでいく。

 ……まあ、ある意味では男の言う通り、こんな裏路地に護衛も無く入り込んだ、いかにも育ちの良さそうなお嬢さんの側にも非は無いこともないのかもしれない。百歩譲って。いや譲らんが?



「くぅ───そうね。こんな蛮人の手で操を奪われるぐらいなら、いっそ……っ!」

「……んん? おい、何勘違いしてるんだ。誰が好き好んでそんなことするかよ」



「…………えっ?」


 …………えっ?



「そのお高そうなお召し物が欲しいだけさ。最初からそう言ってるだろう?」



 ……悲壮な決意を固め、取り出した短刀を自らの喉に向けたお嬢さんが、呆然と口を開けた。

 対する大男はと言えば、何故か『不本意』とばかりに眉を顰めてそれを見遣る。



「いや、だから上着やら髪飾りやら、どれも高く売れそうじゃねえか。それだけ羽振りが良いならちょっとぐらい貧乏人に譲ってくれたってバチは当たらんだろ?」

「…………その、ですから、中身───こほん! わたくしに、む、無体を働く気では……」


「え、それはちょっと……」

「えええぇぇ……!?」


 少しずつ、男の主張を理解したのか、少女の顔が複雑な色に染まりながら引きつっていく。

 何を置いても守るべきモノは守れそうな、しかし喜んで良いものなのかという迷いを宿して。



 …………なんやろね。いやどのみち犯罪行為には違いないんだけど、こう……なんやろねえ?

 狙って欲しいとは言わんけども、そこまで眼中に無いってのもなんというか……まあ、うん。




 …………めんどくせえ。やっちゃえ、ユズちゃん。




「そういうわけだから大人しグッ―――!?」

「え…………えっ!?」


「ええっと……大丈夫、です、か?」


 強姦、の意志だけは無かったらしい追い剥ぎ男(?)の後頭部に鮮やかな一撃。

 バタリと倒れた男の背後、凛と立つ少女の姿に目を見開くお嬢様、に、ちょいと首を傾げながら呼びかけるユズさんです。


 いやあ、今日もキレがイイね! 悪、即、斬だね! 我が相棒よ!

 ……そんで本当によく分からん輩だったね。なんなのよ、その無駄すぎる紳士的(?)思想は。



 本日の我々は到着したばかりの商業都市を何の気なしに観光していた、その最中。

 最近大暴れ中な例の『スキル』の導きでもなく、ひょいと裏路地に入った少女を追っかけて行く怪しい大男を見掛けてしまったが事の始まり。


 とりあえず、見てしまった以上は無視もできないかと二人の背を追っかけた結果が今である。

 この場合、男の運が悪かったのか、それともこの危機管理に疎いお嬢様の運が格別に良かったと言うべきなのか……まあ、なんでもいいか。



「直前のやりとりから悪漢と判断しましたが……誤解ということはありませんよね?」

「あ……えっと、はい、勿論です。助けていただき、ありがとうございます」


 一応、といった風情の問いに答え、懐に刃物を収めて穏やかに頭を下げるお嬢様。

 ……見た目にも特にプライド高いタイプのお嬢様ではなさそうだとは思ったが、いち冒険者への感謝に頭を下げられるレベルなのか。一方で操を守るなら自決を辞さぬ矜持ありと。ふむふむ。


 …………いや、そこまでの(おそらく)貴族のお嬢様が何で一人で出歩いとるねん。



「それにしても…………わたくし、そんなに魅力に乏しいんでしょうか……」

《「…………」》



 ……倒れた男に視線を向け、俯いたお嬢様からそれはもう複雑な声音の呟きが聞こえてきた。

 そりゃまあ、知らん破落戸に欲情されて嬉しいかと言われたら絶対に(No)だけども……うん、私ら何も言えねえっすわ。


 …………不器量とは思わんよ? 個人的には。

 ユズちゃん的にはどう? ……だよねえ。やっぱこの男が色々変なヤツだったんだって。うん。



「…………その、差し出がましいとは思いますが、どちらへ向かうご予定だったのでしょうか?」

「……え?」


「いえ、このような場を目撃した以上、見て見ぬふりはできませんし、急場の護衛を求めるということであれば対応させていただこうかと……この通り、わたしも冒険者ですから」

「え、あ───そう、ですわね……」


 話題逸らし、兼、冒険者の証明を見せながらの申し出に、暫しの無言を経て考え込むお嬢様。


 ここまでの経緯は知らんが身一つで動いていた以上、人目につく真似はしたくないんだろう。

 見知らぬ冒険者を同行させる面倒さ(リスク)を天秤にかけてお悩み中といったところか。知らんけど。


 ……ところで、ひょっとすると危険な案件かも分からんが、そこは良いのかね、ユズちゃんや?

 それを考えてたら人助けはできない? ……んはは、それでこそキミだよねい。



「んん───他言無用を約束できますか?」

「依頼条件として含めてくだされば。冒険者も信用商売には違いありませんから」


「成程。じゃあ───そうね。()()()()()()()()()()()()。それから、わたくしが用事を済ませて表通りに出るまでの護衛、を依頼できるかしら」

「かしこまりました」


 数度、何やら視線を虚空に向けての思考を挟みつつ───普段は頼れる御付きの人がその位置にいるんやろね。たぶん───のお嬢様の結論は、なかなかに柔軟な着地点。

 特に不都合は無いと快諾したユズちゃんに、彼女もまた緊張を綻ばせた顔で息を吐いた。



「それでは早速───あ」

「……どうかなさいました?」


 喜色を滲ませ、いざ出発……とばかりに歩き始めたお嬢様が、一瞬の沈黙と共に足を止める。

 不思議に思い尋ねたユズちゃんに、ぎこちなく振り向いた彼女は言いづらそうに口を開いて。



「この男に追われていた間、適当に走っていたので道が…………その、案内は可能かしら?」

「……目的地の名前か、何かしらの特徴を教えていただけるなら?」


 申し訳なさそうなお嬢様の問いに、ちらりと私に意識を向けつつ答えるユズちゃんです。

 幽霊(笑)への捜索依頼一丁ですな。あいさ任せんしゃい。


 とはいえ今日来たばっかの街だし、捜すにもある程度の情報は欲しい。

 飛んで透かして捜せる手前、どれだけ入り組んだ裏路地だろうが迷子とは無縁だけどもね。




「店名、特徴───なるほど。『タラメのお祓い屋』という看板を()()()()()()()()ですわ」




「…………え?」

《…………ん?》



 ……あれ? 今、お嬢様明らかに、()()()()()()()()()()()()じゃなかった?

 まるで、()()()()()()から耳打ちでもされたような……それ、考えるときの癖じゃなかったん?



「え、ええと……どうしてその、そんな…………」

「……? ああ、()()()()()()()()気にしないでくださいな。なにぶん非常に声が小さい子なのでわたくしが代わりに喋ってあげているのですわ」


《「……そ、そうなんですかー……」》



 いや待って? そうなんだけどそうじゃないっていうか……そこマジで誰か居るの?


 いや、でも、やっぱり物理的になんもない……え、このお嬢様には何が見えてるの??


 というか『お祓い屋』? 目的地そこ? ちょっと突っ込みが追いつかんのですが???




「ええ。実はわたくし最近───()()()()()()()()()()()()()()()みたいなんですの」




《「…………」》



 ……横を見る。首を振られた。


 視線を返された、ので首を振る。



 え~~~と、これは…………どう判断したもんだべさぁねえ。




        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「―――『狐鼠姫(こんちゅうき)』……虫やネズミを使役して捜索を……すごいですわね……」

「ええ、まあ……」



「それに、その若さで中位冒険者(Dランク)なんて───っ、そうよね。ごめんなさい。不躾な嫉みを向けてしまいましたわ。いつの世も隣の芝は青く見えるものですわね」

「ええ、まあ……」



「ん? ───あ、確かにそうね。捜索の妨げになっては元も子もないもの。雑談はこれぐらいにしておきますわ」

「ええ、まあ……」



「え、今のうちにって───うう、分かってるのよ? 帰ったらちゃんとやるから……今くらいは見逃してくれても───そんなあ……」

「…………」




「(レイン……はやく見つけて帰ってきてくださーい……)」



 延々と虚空に話しかけてる貴族令嬢が怖い反面、他人から見た自分も

 こうだったんだろうなあ、とも思えてもにょもにょしてるユズさん概念。

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